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「次世代アカペラ―の参考書」感想

 さいきん発売されたアカペラ本「ひとつ上のステージ」を目指せ! 次世代アカペラーの参考書(ドレミ楽譜出版社、古屋Chibi恵子 , 野口大志著)を買ってきた。ざっと読みとおしたので、感想を書き残しておこうと思う。

 

 この本は、アカペラの音楽的な技術論ではなく、むしろ「技術論以外」の諸々が書かれている。具体的には、ステージに登る際の心構えや、ライブ会場で必要なルール(PAさんとのコミュニケーション等)、音響機材の選び方などである。「アカペラの本質ではないけれど、参考になれば」という意味で「参考書」というタイトルがつけられたそうだ。

 けれども私はこうしたバックヤード的な部分こそ、むしろ本質に迫るために大切な要素なのではないかと考えている。そういう意味で、この本はよかった。

 

 なぜバックヤード的な部分が大切なのか。理由はふたつある。(いずれも個人的な考えで、本書内容とは関係ありません)

 

 ひとつめは、「なんか上手そう」と観客に思わせるためだ。

 技術的には未熟だったとしても、ステージ以外の立ち振る舞いが誠実で、なんとなく自信ありげな雰囲気でいることは、周りにたいして「もしかしてこのグループはめっちゃ上手いのでは?」と思わせることができるものである。

 これはなかなか馬鹿にできない効果だ。一般の観客は、じつは歌唱力ではない部分でグループの良し悪しをはかっていることも多い。要するに観客は音楽的な素養のある人ばかりではないのだ。「雰囲気がかっこいい」とか「なんかしっかりしてる」とか「MCが落ち着いてる」とかそういったところが重要だったりするのである。じっさいに「実力のあるグループよりも、雰囲気の良いグループのほうが人気」ということは例を上げればきりがない話だ。芸能界をみれば一目瞭然だろう。

 

 ふたつめは、良い人間関係をつくるため

 当然の話だが、ライブハウス等々でPAさんはじめスタッフ陣に顰蹙を買うような行為を続けていれば嫌われる。嫌われるということはすなわち機会損失にほかならない。その一方で、いちど好感を持たれさえすれば、次のライブに誘われたり、能力の高い人を紹介されたりと、良い機会に恵まれる可能性が生まれる。

 素人が集まって何十回と練習するよりも、能力の高い人に一回見てもらうほうが上達するものである。たとえ見てもらわずとも、近くにいるだけでその影響は計り知れない。上手くなるためになにより必要なのは、上手い人と一緒にいることだ。

 

 と、偉そうにいろいろと書いてみたが、音楽以外の一般論としても通じる話なんじゃないかと思う。

 この前提を踏まえた上で本書を読むと、いろいろと見えてくるものがある。本の内容をすこし紹介しよう。

 

 本書の前半は、アカペラ出身のPAエンジニアとして著名な野口大志さんによる指南である。「一般的なPAさんにはアカペラ専門用語は通じない」「ステージから降りて出音確認すると迷惑かつ無意味(というか失礼にあたるかも)」などといった会場での心構えが、スタッフ側の視点から語られる。これらの基礎情報を抑えるだけでも、ライブハウス等の会場で嫌われることはなくなるだろうと思う。

 

 後半はRAG FAIRの発声指導等で有名なボイストレーナー・古屋chibi恵子さんによるアドバイスである。ハモることを目標に置いた各種発声練習の方法はもちろん、「腹式呼吸でなく横隔膜」の重要性について語られたページはとても面白かった。いまは横隔膜駆使の時代らしい。またライブ本番に向けたメンタルコントロールについての指南、のど飴レビューや加湿器レビューなど盛りだくさんの内容だ。個人的には胸鎖乳突筋のマッサージ方法はありがたかった。いつもここが凝って頭痛してるからなあ。

 

 本サイトに即したことも書かなければなるまい。この本のなかでボイパプレイヤーとしていちばん嬉しいのは、ボイスパーカッショニストのハヤシヨシノリさんによる実演音源付き(!)の「マイクの選び方」のページである。これはよかった。マイクによって音の違いがよくわかるし、しかもすべてヤシさんのレビューが添えられている。チン☆パラからスメルマンまでずっとかれをフォローしてきた私にとってはまさに興奮ものだった。他ページにはヤシさんによるエイトビートのかっこいいアレンジ実演もある。まじでヤヴァイ。ほんとに買ってよかった。

 

 つい興奮してしまった・・・。

 

 ちなみに私はおもに大学生の頃、この本に指摘されるような失敗ばかりをしてきた。まさにこの本のタイトルに即せば「旧世代アカペラー」である。同じ轍を踏まない「次世代アカペラー」として活躍するためにも、1グループひとつはあっても良いんではないだろうか。

 

 何度も繰り返すが、ステージ以外での立ち振る舞いをただすことは「上手そうに見える」「良い出会いの機会をつくる」というふたつの意味で、おのれの能力を上げてくれる(可能性がある)ので遠回りのようだが気をつけたい。

 そしてこれは私自身にむけた言葉でもある。今週末はライブなのである。

 ということで以下リンクはライブ告知のページに飛びます(笑)。ぜひこちらも合わせてご覧ください。

 

 10月28日(日)演奏してきます