1.アニメオタクにアカペラを、アカペラーにアニソンを

ヤマタク インタビュー

インタビュー当日、アニメイト前にて(写真撮影時のみマスクを外した)
インタビュー当日、アニメイト前にて(写真撮影時のみマスクを外した)

――ヤマタクさんはツイッター上でこれまで120本の多重録音動画をアップしてきました。最大の特徴は、そのほとんどがアニメの主題歌(いわゆるアニソン)や関連曲のアカペラカバーであるということです。

 

ヤマタク:ツイッターに動画をアップしつづける感覚は、「絵師さん」(※1)がアニメの絵を描いてアップロードしているのと同じではないかと思っています。

 

――「絵師」と呼ばれる人たちが二次創作を行うのは、キャラクターや作品への、深い愛情を前提していると思います。自分の得意とするタッチで、愛するキャラクターを描く。それによってキャラクターを「知ってもらう」という気持ちがあると思います。

 

ヤマタク:じつはアカペラを本格的に始めた大学生の頃は、さほどアニソンに興味はなく、アカペラに関する興味のほうが上回っていました。

 大学卒業後に『映画けいおん!』を見たことが、アニソンにどっぷりとハマるきっかけでした。『天使にふれたよ!』という劇中歌に「ユニゾンで歌おう」という歌詞があるのですが、登場人物がじっさいにユニゾン(2人以上の奏者が同じ旋律を歌うこと)で歌うんです。しかも、ユニゾンで歌われているのは作中でそこだけなんですね。

 

 それをきっかけに『けいおん!』の楽曲を漁りだすと、アニソンにかける、サウンドクリエイターのこだわりがひしひしと伝わってきました。「アニメのことを心の底から考えて作っている」ということが感じられたんです。その情熱を、いろんな人に知ってもらいたいと思うようになりました。

 

 そのため、「国民的に流行っているアニソン」を歌おうという気持ちはあまりありません。たとえば『鬼滅の刃』のテーマソングをアカペラカバーすれば、再生数は伸びるかもしれません。よりたくさんの人にアカペラという表現方法を届けることも可能でしょう。しかしぼくは、それを求めていない。というか、「バズらせることができる人」に任せちゃったほうがいいと思います。

 ぼくができることは、「マイナーかもしれないけれど、すばらしいアニソン」をアカペラで歌うことです。オタクに対して「アカペラは楽しいかもしれないぞ」と思ってもらったり、アカペラーに「アニメソングはいいかも」と思ってもらったりする、きっかけを作りたいと思っています。

 

 絵師さんの例で言えば、「質の高い絵を作り込む」というよりも、「ラフ画をたくさんアップする」といった感覚でしょうか。量産が目的なので、クオリティは60点くらい。ただし、リズム感や音感、発声方法は常に鍛錬しており、「60点」の心理的ハードルの高さを維持したまま、クオリティを上げる努力をし続けています。

 

※1…絵師・・・ピクシブやツイッター等で、主にオタク文化に関わるイラストをアップする人の呼称。