聴く人の心を動かす、徹底した音の再現

ボイスパーカッショニスト北村嘉一郎×エアトレインチャンピオン佐藤卓夫 対談

(左から)北村嘉一郎、佐藤卓夫
(左から)北村嘉一郎、佐藤卓夫

 私たちの身の回りは、音にあふれている。乗り物や機械の駆動音、楽器の音色、風が木々を揺らすさざめき、鳥や虫の鳴き声…。そのような環境音を、極めて生々しい描写力で再現し、ひときわ光彩を放つ二人の表現者がいる。

 一人は、世界的に活躍するジャズ・ボイスパーカッショニストの北村嘉一郎。もう一人は、エアトレイン(※1)の世界大会で4度王者となった佐藤卓夫である。

 彼らの共通点は多い。幼少から鉄道にのめり込み、誰に教わるでもなく電車が走る音を声や息だけで忠実に再現していた。大学時代にアカペラと出合い、ボイスパーカッションを本格的に始めた点も相通じている。

 

 本稿は、そんな二人の対談である。前半では、両者が鉄道の音まねをはじめたきっかけや、卓絶した技術を身につけていった経緯に迫った。後半では、北村がプロのボイスパーカッショニストとしてどのように歩んできたかという点を深掘りした。

 彼らのパフォーマンスでは、オノマトペ(擬声音)は一切使われない。そのかわりに、息や声帯を巧みに操って環境音を表現する「直接的模倣」(※2)と呼ばれる手法を駆使している。この対談を一読すれば、直接的模倣が持つ「人の心を動かす力」について共感してもらえるはずだ。

 

 さらにこのたび、二人によるエアトレインのコラボレーションも実現した。記事の最後でYouTubeの動画リンクを掲載するので、そちらもぜひ視聴されたい。(敬称略)

 

<プロフィール>

■北村嘉一郎(@kai_drum/ジャズ・ボイスパーカッショニスト。早稲田大学在学中の1996年、プロアカペラグループ「TRY-TONE (トライトーン)」に加入。2008年にソロアーティストとして独立し、ジャズ・ピアニストやジャズ・ヴォーカリストらとの共演を重ねる。15年からはジャズアカペラグループ「鱧人」のメンバー、18年からはオーストラリアを代表するコーラスグループ「The Idea of North(アイデア・オブ・ノース)」のメンバーとしてそれぞれ活動を続けている。一方、アカペラの文化振興も精力的に行い、11年から20年まで国際アカペラNPO法人「Vocal Asia(ボーカルアジア)」の日本代表を務め、国際交流の橋渡しを行ってきた。同職退任後はVocal Asiaの芸術アドバイザーに就任し、アカペラを通じた国際交流と相互理解の推進に力を入れている。ウェブサイト:http://kaidrums.unison.jp/

 

■佐藤卓夫(@owatakuo/鉄道に関連する音を声や息だけで表現する「エアトレイン」など、音まね全般を得意とするボイスパフォーマー。音楽ユニットSUPER BELL"Z(スーパーベルズ)の野月貴弘らが中心となって企画された「エアトレイン世界大会」では3連覇を含む4回の優勝を達成し、現在もテレビ番組への出演など活躍の幅を広げている。東京大学在学中はアカペラサークルLaVoce(ラボーチェ)に所属し、ボイスパーカッショニストとしても活躍。「オトコダケ」というグループで第5回ハモネプリーグにも出場している。本業は一級建築士。

 

※1…エアトレイン/鉄道にまつわるモーター音やエンジン音、警笛、駅員アナウンスなどを声や息だけで表現するパフォーマンス。名称は音楽ユニットSUPER BELL"Z(スーパーベルズ)の野月貴弘が考案した。

※2…直接的模倣/ボイスパーカッションやヒューマンビートボックスを研究する札幌国際大学教授の河本洋一は、論文『音楽表現の新たな素材としての模倣音の探求~非言語音による直接的模倣音のための発音器官の使い方~』で、「直接的模倣音」という概念を提示している。子どもの遊具の音を「ギッコンバッタン」といった言葉で表現するオノマトペや、楽器音の旋律を「テンツクテンツク」といった言葉で伝える口唱歌(くちしょうが)に対し、言語音を介さず、口の動き、息、声帯のみで再現しようとするのが、直接的模倣である。言語というフィルターを通さないため、生々しい表現力が最大の特徴。河本はその例としてボイスパーカッションや鉄道の走行音の模倣を挙げている。