2.演奏を丸暗記して技術向上

ボイスパーカッショニスト バズ インタビュー

インタビューはビデオ通話で実施した
インタビューはビデオ通話で実施した

■きっかけはヒカキン、Daichi

 

――ここからはバズさんの考えるボイスパーカッションの魅力についてお聞きしていきたいと思います。まずはボイスパーカッションを始めた経緯を教えてください。

 

バズ:ボイスパーカッションを始めたのは中学2年生の頃です。ヒカキンさん(※1)とDaichiさん(※2)の演奏をYouTubeで見て、感動したのがきっかけでした。ヒカキンさんの「Super Mario Beatbox」などを、お風呂に入りながら毎日、練習していました。

 ヒカキンさんの演奏スタイルは、詳しく分類すれば「ヒューマンビートボックス」と言えるのかも知れませんが、当時はボイスパーカッションとの違いも分かっていませんでした。

 

ヒカキンが2010年6月に公開した「Super Mario Beatbox」は5300万再生を記録している(2022年11月現在)

 

――練習したボイスパーカッションは人前で披露していたんですか。

 

バズ:自分が上手くないという自覚があったので、見せられなかったです。どう頑張ってもヒカキンさんやDaichiさんのように演奏できなかった。友達に聴かれると馬鹿にされるかもしれないと思い、ひたすら隠していました。

 

――ハモネプが最初に流行した2001年くらいの時期は、まだボイスパーカッションやヒューマンビートボックスが世間に浸透しきっておらず、スネアドラムの音を綺麗に鳴らせただけで周囲から一目置かれました。今は、ヒカキンさんやDaichiさんはもちろん、SHOW-GOさん(※3)、SARUKANI(※4)やRofu(※5)といったビートボックスのパフォーマーの演奏に耳馴染みがある若者も多く、聴く側も聴かせる側もハードルが上がっているんでしょうね。

 

バズ:そうなんです。ヒカキンさんやDaichiさんの演奏が基準となると、シンプルな8ビートをどれだけ綺麗に演奏しても「ほーん…あっそう…」程度の反応なんです。

 そんな中、ぼくのつたないボイスパーカッションを、ちゃんと褒めてくれる人たちがいました。高校の音楽部の先輩たちです。

 

■「バズーカ」のような奏者に

普段は爽やかな青年だが、ステージ上では熱量のあるパフォーマンスを行う
普段は爽やかな青年だが、ステージ上では熱量のあるパフォーマンスを行う

 

バズ:入学した一宮高校の音楽部は、積極的にアカペラに取り組む部活でした。体験入部の時にボイスパーカッションを披露したら、先輩方に「わーすごい!」とたくさん褒めていただいたんです。それまで誰にも言えず、ずっと隠して練習してきたので、本当にうれしかったですよ。

 同じ高校の卒業生で、パーティなどで使う“クラッカー”を由来とした「くらっかー」というあだ名のボイスパーカッショニストがいらっしゃるのですが、そのくらっかーさんよりもインパクトのある奏者に成長するかもしれないという期待を込めて「バズーカ」というあだ名を付けてもらいました。「バズ」と名乗っているのは、そこから来ています。

 

――ボイスパーカッションの本当の価値をわかってくれる人に出会えたのは良かったですね。高校にアカペラに取り組む部活があったのは、バズさんにとって、幸運だったのではないでしょうか。

 

バズ:本当にそう思います。愛知県は、アカペライベントのFAN(※6)を主催されている二宮孝さんのご尽力もあり、アカペラを取り入れている部活のある高校が多く、とても恵まれた環境でした(関連記事=二宮孝インタビュー)。

 ところで、実は入学時に先輩たちの演奏を見るまで「アカペラでボイスパーカッションが使える」ということを知りませんでした。ヒカキンさんやDaichiさんを見て練習していたぼくにとって、「ボイスパーカッションは一人で演奏するもの」というイメージだったのです。Daichiさんのまねをして歌やコーラスの多重録音をした経験はあったのですが、それがアカペラから発展した表現方法であることもわかっていませんでした。

 

【筆者注】ヒューマンビートボックスとボイスパーカッションの差異についてはさまざまな考え方があるが、最も分かりやすい違いはその成立経緯だろう。ヒューマンビートボックスはヒップホップ文化を背景にして誕生し、「自己表現を重視する技術」として発展してきた。そのため音色や表現方法に多様性(奏者ごとのオリジナリティ)が見られる。対してボイスパーカッションはアカペラの1パートとして成立し「調和を重視する技術」と言うことができる。音色のバリエーションこそ少ないが、他パートとアンサンブルをするためのノウハウが蓄積されている。ヒューマンビートボックスとボイスパーカッションは相互に影響しあっており、境界はほとんど無くなりつつあるのが現状だ。

 

――ええっ!それはかなりの衝撃です。15年ほど前までは、「ボイパ」はアカペラの代名詞でした。「アカペラやってます」と話してピンとこない人に対して「ボイパやってます」と言い換えて伝えていたほどです。今だと「ボイパやってます」と他人に話したらヒューマンビートボックスがイメージされてしまうということですね。

 

バズ:やはりそれだけ、ヒカキンさんやDaichiさんによるヒューマンビートボックスの衝撃が大きかったのかもしれません。実際に、ぼくと同世代のボイスパーカッショニストの多くは、このお二人から大なり小なり影響を受けているはずです。

 そして今なお、ヒューマンビートボックスの影響力はとても強い。そんな中、ボイスパーカッションにしかない魅力をどう伝えるかについて日々、考えています。

 

■北村嘉一郎から強い影響

 

――高校時代、どのようにボイスパーカッションの練習を重ねてきたのでしょう。

 

バズ:入部してからは、自分でも驚くほどアカペラにのめり込みました。ボーカル、コーラス、ベースパートをそれぞれ経験しましたが、やっぱりぼくにはボイスパーカッションが一番、性に合っていたように思います。

 先ほどご紹介したくらっかーさんから、国内外のプロのアカペラグループをたくさん教えていただき、そのボイスパーカッショニストの演奏を片っ端からコピーしていました。中でも、最も強く影響を受けたのは北村嘉一郎さん(※7)でした(関連記事=北村嘉一郎×佐藤卓夫 対談)。

 キック、スネア、ハイハット、クラッシュ、タムの音色の確かさ、シンプルな構成で生み出すグルーヴ感、観客を引き込むソロパフォーマンスの構成力…。どれをとっても超一流です。そんな嘉一郎さんのリズムを楽譜に書き起こしながら丸暗記し、基礎を鍛えていきました。

 

※1…ヒカキン/YouTuber、ヒューマンビートボクサー。言わずと知れた日本のYouTuberの先駆者で、メインチャンネル「Hikakin TV」の登録者数は1000万人以上、総再生回数は100億回を超えている。2010年6月に公開した、スーパーマリオの音楽をビートボックスで再現する「Super Mario Beatbox」が世界的に注目された。

※2…Daichi/ヒューマンビートボクサー。50種類以上の音色を駆使したパフォーマンスを行い、YouTubeを中心に作品を発信している。2009年4月、自宅で撮影した動画「Daichi for Beatbox Battle Wildcard」をYouTubeにアップすると全世界から注目を集め、2022年11月現在、3000万回以上再生を記録している。

※3…SHOW-GO/ヒューマンビートボクサー。ビートボックスの世界大会「Grand Beatbox Battle 2018」ベスト8などの成績を残す。ビートボックスを交えたオリジナル楽曲は多くの企業のテレビCMに使われており、現在、最も注目を集めるビートボクサーの一人。

※4…SARUKANI/SO-SO、RUSY、KAJI、Kohey の4人によって構成された、日本人ヒューマンビートボックスクルー。2020年6月にSARUKANI WARSをリリース。ビートボックスの世界大会「Grand Beatbox Battle 2021」のクルー部門では準優勝している

※5…Rofu/FugaとHIROによるヒューマンビートボックスのタッグチーム。ビートボックスのアジア大会「Asia Beatbox Championship 2018」のタッグ部門で優勝している。2020年7月以降はYouTuberとして活動しヒューマンビートボクサーの紹介動画で人気を博している

※6…FAN(ファン)/Festival of Acappella in Nagoya。愛知県名古屋市の鶴舞公園で毎春、開催されている東海圏を代表するアカペライベント。

※7…北村嘉一郎/ジャズ・ボイスパーカッショニスト。早稲田大学在学中の1996年、プロアカペラグループ「TRY-TONE (トライトーン)」に加入。2008年にソロアーティストとして独立し、ジャズ・ピアニストやジャズ・ヴォーカリストらとの共演を重ねる。15年からはジャズアカペラグループ「鱧人」のメンバー、18年からはオーストラリアを代表するコーラスグループ「The Idea of North(アイデア・オブ・ノース)」のメンバーとしてそれぞれ活動を続けている。一方、アカペラの文化振興も精力的に行い、11年から20年まで国際アカペラNPO法人「Vocal Asia(ボーカルアジア)」の日本代表を務め、国際交流の橋渡しを行ってきた。同職退任後はVocal Asiaの芸術アドバイザーに就任し、アカペラを通じた国際交流と相互理解の推進に力を入れている。