3.「オタク的フットワーク」で表現を続ける

ヤマタク インタビュー

DJイベントにも果敢に挑む
DJイベントにも果敢に挑む

――ここまで、オタク文化…とりわけアニソンをアカペラで表現するモチベーションや楽しみについて語っていただきました。そもそも、アカペラと出会ったのはどんなきっかけだったのでしょう。

 

ヤマタク:中学生の頃に「ハモネプ」でボイパを知ったのがきっかけです。『ハモネプスタートブック』(※1)を仕入れてきて学んだのは、同世代の人たちと同じです。

 そして同時期に『beatmania』(※2)と出会ったのが大きかった。そこで「4つ打ち」(ダンスミュージック等の楽曲でバスドラムにより等間隔で鳴らされるリズム)という概念と出会い、覚えたてのボイパで表現していました。「ドン」と「ツ」だけで曲が表現できるため、ハードルが低い。それが最初の成功体験でした。

 

 その後も、ビートマニアによってさまざまな音楽ジャンルをインプットしていきました。『Attack The Music』というハードテクノの楽曲では、バスドラムによるシビアなタイミングのフィルインが繰り返されるのですが、これで付点8分や16分といったリズムを学びました。滝のようにキーが迫る中、裏拍でハイハットを打ち続けるといった技術も求められます。そしてそういうリズムをボイパでアウトプットしていくことで、モリモリと技術を磨きました。ボイパの最大の特徴は、アウトプットの利便性や即効性だと思います。

 

――私も同世代なので、ボイパと同時期にビートマニアに親しんだ覚えがあります。言われてみれば、ビートマニアにおけるデバイス(ボタン)入力と、ボイパにおける出力の感覚は、似ているかもしれません。

 

ヤマタク:そう思います。例えばドラム等の打楽器を演奏する場合、「腕を振り上げる」といったモーションが必要となりますが、ビートマニアは指先だけの運動なので、予備動作にかかる時間はほとんどない。そしてボイパについても、口腔内の微細な運動が中心なので、予備動作にかかる時間はほとんどありません。このあたりが「似ている」のだと思います。それこそ、手元の入力がそのまま音楽になるEDM(エレクトロ・ダンス・ミュージック)等の打ち込み表現とボイパの相性は良いかもしれませんね。

 

 一方で、ボイパで「ドラムらしさ」を出すには、より工夫が必要だということでもあります。大学のアカペラサークルに所属していたときは、「ドラムらしさが出せない」という課題にぶつかりました。

 試行錯誤の上でたどり着いたのが、XY座標での捉え方です。

 たとえばクラッシュシンバルを鳴らしたいというときに、ドラムであれば直前に予備動作が入ります。これに相当する意味合いで「クシー」と鳴らす直前にちいさく「フ」を入れてみる。「(フ)クシー」といったかたちです。あくまでピークの位置は同じですが、予備動作の気持ちを込めることで、よりニュアンスが出てくるのですね。

 ドラムや楽器における「ゴーストノート」は演奏に付随する動作から生まれるものですが、ボイパではこのあたりを意識的に生み出す必要があります。そもそも「意識して鳴らす演奏をゴーストと言えるのか」というジレンマもあるのですが…。

 

 そして大事なのが、シンバルが振動し終える「減衰」まで意識することです。予備動作のないボイパにおいては、このあたりをとりわけ意識して鳴らしていかないと、「生(なま)感」は出てこないと考えます。

 たとえばオープンハイハットひとつとっても、悩み抜かないと、いいボイパはできないと思います。音の最後まで意識を向け、リバーブでごまかさず、クラッシュとの区別を鮮明にする。8ビートや16ビートの感覚も耕しておかなければなりません。

 

 ドラマーの方から「ボイパがうらやましい」という話をしていただいことがあります。ドラムの場合、ミュートひとつとっても挙動が必要のため、もどかしいそうです。ボイパの場合は挙動がひとつ少ないため、スムーズに次の音につなげることができるんですね。

 

 あとはやっぱり、ボーカルレッスンを習っていると、「ボイパって歌だな」と思うようになってきました。ボーカルレッスンは、どこまで息を続けられるか、かっこいい発音の仕方とか、豊かな声の出し方とか、細かく指導していただける。すべて口腔内や声帯周辺の響きを意識する必要がありますが、まさにボイパは、これらの意識が不可欠です。

 

――新型コロナの影響でなかなか外でのイベントができない状況が続いています。現在、ツイッターを主戦場として精力的に活動していますが、やはり現場での活動がヤマタクさんの真骨頂ではないでしょうか。

 

ヤマタク:これまで現場で得られたことがたくさんありました。アニソンのカバーバンドのライブに行ったり、クラブイベントに行ったりする中で、「アニソンが好きで、なおかつ何かを表現したい」という人たちに会ってきたのは貴重な経験です。そういう人たちの中でぼくが何かをするのであれば、やっぱりアカペラだと思います。

 

 とはいえまだまだ一般化していません。イベントに「ボイパができます」「アカペラできます」と乗り込むことがありますが、ヴォーカリストとして扱うべきか、楽器として扱うべきか迷われてしまう。そこでしっかりと立場を表明するためにも、「オタク的フットワーク」を発揮しつつ、失敗しながら、自分の動き方を模索していく必要があると思います。

 

■ヤマタクの演奏をまとめたプレイリスト(画像クリックでリンク先へ)

※1…『ハモネプスタートブック』・・・ドレミ楽譜出版社、古屋恵子著、犬飼將博監修「ハモネプスタートブック トレーニングCD付 ハモってみよう!! 」。音楽教本として異例の14万部のベストセラー。

 

※2…ビートマニア。コナミによる音楽ゲームで、アーケードゲーム、家庭用ゲーム機などで展開した大ヒット作品。90年代以降の「音楽ゲームブーム」のきっかけを作り出した。

※3…テイク6・・・1990年以来グラミー賞を複数受賞する世界的に有名な6人組の男性コーラスグループ。

 

※4…ザ・リアル・グループ・・・スウェーデンのプロのジャズアカペラグループ。テイク6と並ぶ、世界で最も有名なコーラスグループのひとつ。

 

※5…エム・パクト・・・ロサンゼルスを拠点とするアメリカンポップジャズボーカルグループ。たびたび来日し日本のグループにも影響を与えた。

 

※6…ザ・ハウス・ジャックス・・・1991年にデイク・シャーロンによって設立された米国のアカペラグループ。

 

※7…『ドリフターズ』・・・平野耕太による漫画。2016年にアニメ化しTOKYO MX等で放映された。

 

※8…『おちこぼれフルーツタルト』・・・2020年10月から12月にAT-X、BS日テレほかで放送。落ちこぼれのヒロインが寮の取り壊しを阻止するため奮闘する物語

※9…小倉唯・・・声優、歌手、女優。代表作は神様のメモ帳(アリス)、ロウきゅーぶ!(袴田ひなた)、HUGっと!プリキュア(輝木ほまれ/キュアエトワール)など

 

※10…ブライアン・マックナイト・・・アメリカのシンガー、ソングライター。テイク6のクロード・マックナイトは兄