1970年代にその呼称が生まれたとされる「オタク」。アニメや漫画といった特定のカルチャーに強いこだわりを持ち、自ら創作に打ち込むかれらの活動は、日本においてひとつの文化圏と経済圏を生み出している。
オタクの創造力は、さまざまな文化と結びつき、その存在感を放ち続けている。結びつく先は音楽、ゲーム、ファッションなど枚挙にいとまがなく、それらは「クールジャパン」という概念と分かち難く世界に発信されている。いまや日本のあらゆる文化を考えるうえで「オタク」を無視することはできない。
当サイトでも、「オタク」を重要な概念と位置づけてきた。論考「『二次創作』の概念は、アカペラカバーの『うしろめたさ』を乗り越える」においては、オタク文化におけるキーワード「二次創作」について、アカペラ文化と重ね合わせて検討した。
今回、「オタク文化とアカペラ文化の関係」についてさらに深堀りしようと、インタビューを実施した。「アニメオタク」を公言し、これまでアニメソングを中心に120曲もの多重録音を発信してきたヤマタクである。
ヤマタクは神戸大学アカペラサークルGhanna Ghannaを経て、地元・宮崎でボイスパーカッションの技術を駆使し、ダンサーやラッパーとコラボしながら音楽活動を継続。大阪へ移転後は、多重録音を中心として「ラブライブ!」(※1)、「Tokyo 7th シスターズ」(※2)、「Sphere−スフィア−」(※3)の楽曲をもとにCDを製作し、日本最大級の同人誌販売イベント「コミックマーケット」(※4)への出展を果たした。さらに「オタク的なフットワーク」を発揮し、「けいおん!」(※5)の聖地・豊郷小学校での同人イベントでは、けいおん!のアカペラカバーCDを頒布。さらに「ヒプノシスマイク」(※6)のアカペラカバーCDを発表するなど、精力的に活動の幅を広げた。
その後、大阪拠点のサブカル混声合唱団「ani×sing」に所属。現在は同合唱団のメンバーや大学時代の後輩とともに、プリキュア楽曲専門アカペラグループ「ザ☆キュアルグループ」を主催している(このグループ名はもちろん、世界で最も有名なアカペラグループのひとつ「ザ・リアル・グループ」のオマージュだ)。
インタビュー当日、アニメ「スター☆トゥインクルプリキュア」のキャラクター・羽衣ララ(キュアミルキー)のTシャツを着て登場してくれたヤマタクは、オタクの精神性をアカペラに導入したことで得られた経験を語ってくれた。議論はアニメソングのアカペラアレンジにおける魅力にとどまらず、音楽ゲームとボイスパーカッションの類似点を示す身体論にまで波及した。
「オタク的視点」を経由した考え方は、示唆的なものが多い。今回の記事は、「オタク・アカペラ論」ともいうべき新たな考え方の「試論」として位置づけることができるのではないかと考えている。
インタビュー:2021年6月
「ボイパを論考する」のために「スター☆トゥインクルプリキュア」の主題歌を歌ってもらった
※1…「ラブライブ!」・・・学校で結成された架空のアイドルグループの奮闘と成長を描く日本のメディアミックス作品シリーズ
※2…「Tokyo 7th シスターズ」・・・スマートホン向けアイドル育成リズム&アドベンチャーゲーム
※3…「Sphere−スフィア−」・・・寿美菜子、高垣彩陽、戸松遥、豊崎愛生による声優ユニット
※4…コミックマーケット・・・個人や団体が、自費で制作した「同人誌」を販売し合う日本最大規模のイベント。1975年の開始以来その規模を拡大し、2019年夏開催時の来場者は73万人、経済効果は150億円とも言われている。2020年1月にはAmazonも初出店。グローバルなイベントとして海外からも認知されている。
※5…「けいおん!」・・・廃部寸前の高校軽音部を舞台にしたかきふらいによる漫画。京都アニメーションによる2011年のアニメ化に伴いリリースされた関連楽曲は音楽チャートを賑わせガールズバンドブームを生み出した。
※6…「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」・・・キングレコード内レーベル・EVIL LINE RECORDSが手掛ける男性声優による音楽原作キャラクターラッププロジェクト