――今回、インタビューさせていただいたきっかけは、和茶さんが昨年6月から8月まで行ったヨーロッパツアーに私が興味を持ったことです。「日本のボイスパーカッション奏者が海外でツアーをする」という珍しい事例の背景を、ぜひ伺いたいと考えました。
昨年のツアーでは、フランスの日本文化を紹介するイベント「ジャパンエキスポ」(※)を中心に、イタリア、スペイン、クロアチアでも演奏を行いましたね。なぜこのようなツアーを実施したのか、そしてどのようなツアーだったかを教えてください。
和茶:「パフォーマンスは生でお見せするのが一番」。これがぼくの奏者としての基本的な考えであり、ヨーロッパツアーをした理由です。動画で世界へ瞬時に発信できる時代ですが、生で演奏をお見せしたいというのは、ぼくなりの信念です。
殺陣(たて)パフォーマンスチームの刀屋壱(かたなやいち)さんとタッグを組んでの、2カ月間にわたるツアーでした。剣舞とボイスパーカッションを組み合わせたパフォーマンスに対して大きな拍手をいただき、日本文化の一つを伝えられたと達成感を覚えています。
ジャパンエキスポでのパフォーマンス
このヨーロッパツアーでは、初めてクラウドファンディングにも挑戦しました。皆さんから応援の気持ちを込めて大切なお金をいただいたことに感激し、励みになりました。改めて、感謝をお伝えしたいと思います。
――ジャパンエキスポへの出演は、昨年で合計8回と伺いました。回数を重ねることで得られた発見や手応えはありますか。
和茶:ジャパンエキスポに出演するアーティストさんは毎年、それなりの人数がいますが、1、2回の出演で終わるパターンが多いようです。しかし、ぼくは出演を続けることに最も大きな意義があると思っています。
最初はぼくのパフォーマンスを珍しがって見てくれていたお客さんも、最近では見慣れてきたせいか、刀を振っただけでは反応はしなくなってきました。期待値が上がってきているということです。その期待に応えようと表現の幅を広げてこられましたし、何年も通うことで楽しみにしてくれる現地のファンも増えてきました。
――ヨーロッパのお客さんはどのような方が多いのですか。
和茶:アートに関心のある方が多い印象です。ヨーロッパでは街を歩いていると、センスのいい看板や広告、個性的な絵、独創的な路上パフォーマンスが次々と目に飛び込んできます。彼らには、アートが生まれた時から染み付いているのです。そして、そんな土壌だからこそ、ぼくの表現が受け入れられ、毎年オファーをいただいているのだとも思います。
初めてフランスのジャパンエキスポに出演した際、現地のお客さんが「君の演奏はアメージングだった。日本の要素を取り入れた、今まで聞いたことのないようなヒップホップだ」と言ってくれました。フランスではヒップホップ由来のヒューマンビートボックスが定着しているため、このような認識になったのだと思います。日本では考えられない受容のされ方であり、その言葉はのちにパフォーマンスにも良い影響を与えてくれました。
――今回のツアーでは、アキレス腱断裂という大きなアクシデントに見舞われました。
和茶:バルセロナの路上でパフォーマンス動画を撮影していたときに、ブチンと切れたのです。激痛もありましたが、あまりに突然のことに茫然自失となりました。現地の病院で手術してもらい、ジャパンエキスポは座りながらの演奏ではありましたが、なんとか間に合わせることができました。刀屋壱の皆さんには演出の変更などでフォローいただき、感謝してもしきれません。
けがをきっかけに、発見もありました。治療にあたって保険会社に提出する書類に「けがの理由」を具体的に書く欄があり、最初は「ボイスパーカッションでけがをした」と書こうかと考えましたが、うまく伝わるとは思えません。悩んだ末に「ダンスでけがをした」と記入しました。そこで初めて、自分自身が「ダンスをしながらボイパをする人」なんだと自覚しました。
振り返れば、ぼくは昔からフレディ・マーキュリーやマイケル・ジャクソンにとても憧れてきました。彼らは歌手として超一流であるとともに、身体動作で観客を魅了するパフォーマーとしても超一流です。
ライブに訪れる観客は、音楽を耳だけでなく目でも楽しんでいます。ぼくはボイスパーカッションも同じであるべきだと思っています。せっかくマイク一本で演奏できるのだから、残りの手や足も使ってお客さんにメッセージを発信しないと、もったいないですよね。そんな考えだから、「ダンスをしながらボイパをする人」という自己認識はぴったりなんです。