ボイパとともに「防災の輪」広げる

ボイスパーカッショニスト・防災士 KAZZインタビュー

 1995年1月17日、兵庫県淡路島北部の明石海峡を震源とするマグニチュード7.3の大地震が近畿地方を襲った。特に神戸市市街地においては建物の崩壊や火災など甚大な被害が発生。多くの尊い命が奪われることとなった。

 「住み慣れた自宅が無残に壊れ、見慣れた景色が真っ赤に燃え上がった。この世のものと思えない風景だった」――そう語るのは、日本においていちはやくボイスパーカッションを習得し、その道を開拓してきたボイパプレイヤーのKAZZ(カズ、本名:桝田和宏)である。

 

 震災後の神戸のまちを元気づけようと、がれきが広がるなか、アカペラを、そしてボイパを演奏しつづけてきた。楽器にはない「声ならではの温かさ」は、被災者の傷ついた心に届いていった。 「ボイパは世界を変えられる」――被災地でKAZZはそう確信していたという。

 その後「Phew Phew L!ve」(ヒューヒューライブ、※1)「Baby Boo」(ベイビー・ブー、※2)「Permanent Fish」(パーマネントフィッシュ、※3)など関西のみならず日本アカペラ界を牽引するグループをつぎつぎと生み出し、現在は防災と音楽をテーマとしたユニット「Bloom Works」で活動を行っている。

 

 当サイトではKAZZにインタビューを行った。ボイパのパイオニアとして多くの壁にぶつかってきたかれが見出した「答え」は、私たちボイパプレイヤーに多くの示唆を与えてくれるはずだ。また台風15号・19号をはじめ多くの風水害が全国を襲った今年(2019年)にインタビューを行ったことにも、大きな意義があると考えている。

 

 インタビューに入る前に、KAZZの経歴を整理しよう。

 

 1972年、兵庫県神戸市に生まれたKAZZ。20歳の頃に日本におけるアカペラグループの先駆けである「チキンガーリックステーキ」に大きな影響を受け、アカペラの世界に入る。前後してボイスパーカッションの演奏を始め、「チキンガーリックステーキJr.」を経て1994年に「Phew Phew L!ve」を結成。ボイパを交えたアップテンポな曲を中心に演奏活動を開始した。

 そして翌95年1月17日、阪神淡路大震災に被災する。奇しくもその日は、神戸のライブハウス「チキンジョージ」で、プロ初のワンマンライブを予定していた前日であった。関西における音楽の登竜門とされたそのライブハウスは、全壊してしまう。

 失意に暮れたKAZZだったが、同年の夏ごろからPhew Phew L!veとして神戸・元町商店街の仮設屋台村「元気食堂」のステージに立ち始める。一方で神戸三宮のライブハウス「CASHBOX」(※4)の立ち上げにも尽力。同所はのちにアカペラの聖地としての地位を確立していくこととなる。

 96年に「Baby Boo」を結成。CASHBOXを中心として活動し2002年にメジャーデビューを果たす。脱退後の2005年に「Permanent Fish」を結成し「アカペラを、世界へ」をテーマに海外へ活躍の裾野を広げていった。17年にはPermanent Fishを脱退、「Bloom Works」を結成し「防災と音楽」をテーマに活動を行っている。

 

 以上のかんたんな振り返りからもわかる通り、KAZZの歩みそのものが、日本におけるボイパの歴史やアカペラの歴史を振り返るうえで極めて重要である。しかしその道のりは決して華やかなものばかりでなく、大きな苦難の連続であった。いかにしてその壁を乗り越えてきたのか。今回のインタビューでは、KAZZが描き続けてきた夢を明らかにした。

※1…Phew Phew L!ve・・・KAZZとHERO(上田ヨシヒロ、現SugarS)が中心となり1994年に結成した7人組男声アカペラグループ。神戸を拠点にテレビ等のメディアでも活躍し2001年解散。KWANI(現ダイナマイトしゃかりきサ~カス)、JO(現SOLZICK)などその後プロアカペラグループを生み出したメンバーも多数在籍した

 

※2…Baby Boo・・・1996年結成の男声ヴォーカルグループ。2002年 「プラネタリウム」 でメジャーデビュー。神戸市を中心都市テレビドラマ等のタイアップ多数。現在男声5人により活躍中。ベイビー・ブーオフィシャルウェブサイト:https://www.boobooboo.net/

※3…Permanent Fish・・・2005年結成。「神戸から世界へ」を合言葉に、海外公演なども多数実施。08年、韓国でメジャーデビュー。09年に「大韓民国文化芸能大賞」の外国芸能人賞を受賞している。2019年4月解散。Permanent Fishオフィシャルウェブサイト:http://www.fantasia-kobe.jp/pf/

※4…CASHBOX・・・アカペラを中心にイベントを多数開催するライブハウス。オーナーの上総博道氏とKAZZの出会いのきっかけは、元気食堂で演奏していたボイスパーカッションに衝撃を受けたことだ。上総氏はその後もKAZZを全面的に支援している(参考:BS日テレ「キズナのチカラ 神戸に響いた魂の音楽~大震災から20年目の恩返し~」2015年2月6日放送)。CASHBOXは現在も関西アカペラ文化の発信地であり、KAZZによると、BabyBooなどの前座として大阪大学アカペラサークル inspiritual voicesや関西大学アカペラサークルBrooklyn304、神戸大学アカペラサークルGhannaGhannaなどの創設者らが演奏を果たしていたという