――「アニソンのアカペラカバー」は、有名曲はともかくとして、全体的にあまり見かけない印象です。「少数派」としてどのように魅力を発信しているのでしょう。
ヤマタク:そのとおり、アニソンのアカペラは少ないんです。ほかの音楽形態ではけっこう見られるのですが。
印象的なのは、合唱団ですね。たとえばアイドルマスター(※1)の曲を歌う「アイマス合唱団」は、関東・中部・関西・九州の各地にあります。2018年くらいに大阪の練習会に参加したことがあるのですが、楽譜を入れるクリアファイルがみんなアイマスでした。とてつもない愛を感じますよ。
かれらから「アイマスでアカペラやってるやつが少ねえと思ってたんだよ」と言われたことがあります。アニソン好きの歌好きは、もしかしたらみんな合唱に回っているのかもしれません。だからこそ(マイノリティとして)自分ができることを考えるのですが。
ぼくがアカペラアレンジのモデルにしているのは、トライトーン(※2)とテイク6(※3)、ザ・リアル・グループ(※4)そしてエム・パクト(※5)。曲によってはハウス・ジャックス(※6)なども参考にします。原曲を尊重するか、アカペラならではのうまみを前面に出すか…。曲によって使い分けるためにも、アカペラの情報はいつもアップデートしています。
たとえば、『ドリフターズ』(※7)というアニメがあります。このオープニング曲「Gospel of the Throttle狂奔REMIX ver.」のAメロ部分はドラムスとベースラインが際立つのですが、「ボーカル3・ベース1・ボイパ1」という編成で直球のアレンジするのも面白いですし、ひねた和音を入れるのも面白い。ハウス・ジャックスがよく使うように、高音パートでルート音と半音下をぶつけさせたりとかすると面白い。
また『おちこぼれフルーツタルト」(※8)のエンディングテーマ『ワンダー!』を聴いた瞬間、「セブンスを入れると気持ちいいのでは」と直感し、実際に盛り込んだらかっこよく仕上がりました。
■『ワンダー!』の演奏
こんばんは、冷えますね……
— ヤマタク@10/27あおやまつり (@ymtk_vocDr) January 12, 2021
今回はまんがタイムきららが輩出してしまった問題児、#おちこぼれフルーツタルト より
主題歌「ワンダー!」をアカペラでカバーしました。
問題児のくせにちょっと興味を引くメロディーしやがって…… pic.twitter.com/4QrQCGfGD1
いろいろとチャレンジしていますが、動画の出来の良さと再生数の伸び方については、相関関係はありません。というか、そう割り切らないとやってられない(笑)。
ちなみに、今までで一番再生されたのが、ギャグ感覚で作った動画です。声優の小倉唯さん(※9)の『Raise』(レイズ)という楽曲があるのですが、この曲にはオタク界隈から生まれた「LINEをやらない👏俊龍」という特殊なコールが存在します(筆者注:詳しい背景は検索を)。これをハモらせて投稿したところ、考案者が拡散してくださり、たいへんな再生数を叩き出しました。調子に乗って二回目にベルトーン(異なる音階をタイミングをずらして重ねていき、和音を作り出す表現)を採用したところまったく伸びなかったのですが(笑)。
■『Raise』の演奏
#小倉唯生誕祭
— ヤマタク@10/27あおやまつり (@ymtk_vocDr) August 15, 2020
Raise
(“he does NOT use the application nor any instruments”bootleg) pic.twitter.com/sN2YTtIbPi
同じ小倉唯さんの楽曲『Honey♥Come!!』の「Pick me, Please」という歌詞の部分がまたオタク界隈で人気なのですが(筆者注:この背景についても検索を)。この箇所にブライアン・マックナイト(※10)と息子2人が見せた「上パートを残したまま下ふたつのパートが分かれていく」という展開を採用すると、めちゃくちゃハマったんです。オタク的な面白がり方とアカペラ表現がつながっていく瞬間は、おもしろいですね。
これからも「足さない、引かない」という、アカペラの等身大の良さを、アニソンに乗せて伝えられる方法を模索していきたいと思います。
※1…アイドルマスター・・・バンダイナムコエンターテインメントによる育成シミュレーションゲーム。現在のアイドル育成ゲームブームの火付け役であり現在も牽引し続けている
※2…トライトーン・・・1992年、早稲田大学アカペラサークルStreet Corner Symphony(SCS)内で結成したアカペラグループ。1994年「Etoile/12の星の物語」(ビクター)でメジャーデビュー。2001年アメリカBest Recording Awardsにおいてアルバム「A Cappella MAGIC BOX」が最優秀ジャズアルバムを受賞(公式HPより)
※3…テイク6・・・1990年以来グラミー賞を複数受賞する世界的に有名な6人組の男性コーラスグループ。
※4…ザ・リアル・グループ・・・スウェーデンのプロのジャズアカペラグループ。テイク6と並ぶ、世界で最も有名なコーラスグループのひとつ。
※5…エム・パクト・・・ロサンゼルスを拠点とするアメリカンポップジャズボーカルグループ。たびたび来日し日本のグループにも影響を与えた。
※6…ザ・ハウス・ジャックス・・・1991年にデイク・シャーロンによって設立された米国のアカペラグループ。
※7…『ドリフターズ』・・・平野耕太による漫画。2016年にアニメ化しTOKYO MX等で放映された。
※8…『おちこぼれフルーツタルト』・・・2020年10月から12月にAT-X、BS日テレほかで放送。落ちこぼれのヒロインが寮の取り壊しを阻止するため奮闘する物語
※9…小倉唯・・・声優、歌手、女優。代表作は神様のメモ帳(アリス)、ロウきゅーぶ!(袴田ひなた)、HUGっと!プリキュア(輝木ほまれ/キュアエトワール)など
※10…ブライアン・マックナイト・・・アメリカのシンガー、ソングライター。テイク6のクロード・マックナイトは兄