1.人数が少なくてもアカペラはできる

アカペラユニット CubiX インタビュー

インタビューに答える(左から)太田昌孝、Ena、Mito
インタビューに答える(左から)太田昌孝、Ena、Mito

■制限が表現を豊かに

 

――CubiXは現在、動画発信を精力的にしています。どの動画も3人とは思えない歌声の厚みが感じられ、いきいきとした躍動感もあり、まさにベテランの貫禄を感じさせてくれます。

 

太田昌孝(以下、太田):ありがとうございます。コロナ禍になる以前は6人だったので、人数が減ると表現の幅が狭まるのではないかという不安がありましたが、そう言ってもらえると安心します。今は「少人数だからこそできることをやろう」といった意気込みで、積極的にチャレンジをしています。

 

――「少人数だからこそできること」とは。

 

太田:理想とするイメージは、ファミコン(ファミリーコンピュータ)でゲームをするときに流れるBGMです。

 ファミコンの音楽は、メロディとハーモニーは3つの電子音、パーカッションはノイズでそれぞれ奏でています。発売した1980年代は、技術的に、同時に鳴らせる音の数が限られていました。しかし、「スーパーマリオブラザーズ」や「ドラゴンクエスト」といった具体例を挙げるまでもなく、少ない音数ですばらしい楽曲の数々が生み出されたのは周知の事実です。

 「少ない音数でも、工夫さえすればいい曲を生み出せる」というファミコンの例は、3声でアカペラをしているぼくたちに勇気を与えてくれます。

 

スーパーマリオの例。3和音+ノイズで数々の名曲が生み出された(動画前半)

 

Mito:CubiXが発信している演奏も、まるでファミコンのように各パートが複雑に音程やリズムを変化させ、人数の少なさを補っています。マサ(太田)が書いてきた楽譜をもとに、細かなニュアンスを摺り合わせながら曲をつくっていくのは刺激的です。

 各パートの歌声に耳を傾けていただくと、せわしなく音程やリズムが動いているのが分かりますよ。

 

Ena:3人ならではの楽しさもあります。例えば、互いの歌声がよく聴こえる点です。相手の歌を聴き、その瞬間ごとに音程を調整できるので、これまで以上にハーモニーを楽しめています。一つ一つの音を大切に奏でようという気持ちが、これまで以上に大きくなったようにも感じます。責任が重くなった、と言ってもいいかもしれません(笑)。

 

「せわしない動き」が魅力をつくっている

■アカペラの大先輩の姿が励み

 

――社会に出ると、転勤や転職、結婚、子どもの誕生などライフステージが著しく変化し、メンバーが辞めてしまったり、解散せざるを得なくなってしまったりといったことは珍しくありません。継続の難しさは、社会人アカペラグループに共通した悩みです。そのため、正式メンバーが3人になったことを前向きにとらえるCubiXさんの姿勢は、あらゆる社会人アカペラグループにとって参考になりそうです。

 

太田:CubiXの場合、以前まで正式メンバーだった3人は「サポートメンバー」として名前を残してもらっています。とはいえ、基本的には3人での活動が中心となり、環境が大きく変わったのは事実です。

 体制がこのように変わった最大の理由は、新型コロナウイルスでした。以前はかなりの頻度で6人でステージに立ってきたのですが、コロナ禍となってからは、出演が決定していたイベントも中止となり、6人がスタジオに集まることすらできない時期がしばらく続きました。

 結成以来、ずっと走り続けてきたCubiXのメンバーが、初めて、グループとの付き合い方についてじっくりと考える期間となったのです。今後の方針について話し合い、導き出したのがこのような体制変更でした。

 

――大きな変化に対する不安はありませんでしたか。

 

太田:実際のところ、3人の状態で良い演奏ができるかどうかは自信がありませんでした。

 楽器を演奏しながら歌うことも検討しましたが、やっぱり、アカペラにこだわりたかった。そこで、インタビューの冒頭でもお伝えした通り「少なくなった音数を生かそう」という考え方にシフトチェンジしました。よく考えると、3人のアカペラグループにはトライトーン(※1)さんやダイナマイトしゃかりきサ~カス(※2)さんといった大先輩がいます。不安は、いつしか無くなっていました。

 

 メンバーが3人になり、定期的に集まるのも容易になりました。昨年の秋から毎週1回、平日の夜に都内のスタジオに集合し練習を継続しており、習慣化してきています。スケジュール調整をするだけでも苦慮していた6人の頃を考えると、機動力はかなり上がりました。

 もちろん、改めて言うまでもありませんが、6人で歌うアカペラは楽しく、運営が大変な分、やりがいもありました。ですから、当時を否定する意図はありません。ここで伝えたいのは、「人数が少なくてもアカペラは楽しめるよ」というメッセージです。

 

 アカペラをしたくてもメンバーがなかなか集まらない、仲間が急に脱退しなければならなくなった…そうした状況の人たちには、ぜひ、ぼくたちの演奏を見て「少ない人数でもできること」を前向きに考えてみて欲しいです。

 

※1…トライトーン/1992年、早稲田大学アカペラサークルStreet Corner Symphony(SCS)内で結成したアカペラグループ。1994年「Etoile/12の星の物語」(ビクター)でメジャーデビュー。2001年アメリカBest Recording Awardsにおいてアルバム「A Cappella MAGIC BOX」が最優秀ジャズアルバムを受賞。公式HP(https://www.try-tone.net/)より引用。

※2…ダイナマイトしゃかりきサ〜カス/3人組ボーカルエンターテイメントグループ。2002年関西で活動を開始し、全国的にライブ活動を展開。3枚のインディーズCDのリリースを経て、2007年10月24日ソニー系レーベルよりシングル「SUNRISE」でメジャーデビュー。2009年10月より、ゆうき・たろう・KWANIの3人で活動を続けている。参考:公式HP(http://shakariki.info/