3.「ボイパといえばバズ」が目標

ボイスパーカッショニスト バズ インタビュー

「いちご同盟」による演奏のワンシーン
「いちご同盟」による演奏のワンシーン

■調和と個性を重視

 

――ぼくがバズさんを初めて知ったのは、「いちご同盟」というアカペラグループでボイスパーカッションをしていたのをTwitterで見かけたことです。高校生ならではの爽やかさを感じながら、微笑ましく見ていました。

 

バズ:いちご同盟は一宮高校音楽部で結成した、女声2人、男声4人のグループです。邦楽を歌う高校生のアカペラグループが多い中、「洋楽をかっこよく歌おう」というコンセプトで活動を続けました。顧問の先生の力をお借りしながら、楽譜を作ったり、ステージングを工夫したりと、自分たちでグループを運営する力を養っていきました。試行錯誤の中で、東海アカペラコンクール優勝という結果を残せたのは一番の思い出です。

 何よりも、このグループでアカペラの楽しさを学べたと思います。部活が終わった後も、公園に行って制服のまま6人で練習を続けていました。アカペラでいい演奏をするためには、仲間との信頼関係が大切だということを体感できたのも貴重でした。

 

いちご同盟の演奏はまさに青春そのもの

 

――結局、アカペラは人の声の集合体ですから、仲が悪ければ上手くいきようがないですもんね。

 

バズ:まさしく、アカペラはコミュニケーションの延長だと思います。そしてつい忘れがちですが、ボイスパーカッションもまたコミュニケーションの手段だということも、常に再確認しておきたいです。

 どんなに話が上手い人でも、しゃべりすぎたり、出しゃばりすぎたりすると調和を乱してしまいますよね。それと同じで、どんなにボイスパーカッションが上手くとも、激しく鳴らしすぎるとハーモニーの邪魔をしてしまいます。

 演奏の中で、自分のボイスパーカッションはいま必要かどうかを考え、いらなければ音数を減らす、時には何もしないという選択をすることが大事だと思います。

 そして、人間一人ひとり性格が異なるように、ボイスパーカッションにも個性があったほうが良い、というのがぼくの考えです。

 

――ボイスパーカッションの個性。確かに、著名なボイスパーカッショニストの演奏は、少し聴いただけでその人の演奏だということが分かります。バズさんが影響を受けたヒカキンさんも北村嘉一郎さんも、かれらにしか鳴らせない音やグルーヴを持っていますね。

 ちなみに、バズさんの個性はずばり、どのようなものですか。

 

バズ:実は、まだしっかりと定まっていません…。「自分にしかない個性」が欲しいのですが、そんなものはすぐには見つからないということも分かっています。ですから、今はいろんな方のまねに専念しています。

 音色やリズムパターンはもちろん、グルーヴ感、手の動かし方、立ち方まで徹底的にまねをします。その中で自分にしっくりくるものを取り込んでいく。道は長くて険しいですが、この繰り返しで個性を磨いていくしかないと思います。

 ずっとヒカキンさんのまねを続けていても、ヒカキンさんは超えられない。嘉一郎さんのまねをしていても、嘉一郎さんは超えられないです。個性を出したところに、世界一への道が見えてくると考えています。

 

■「人間らしさ」がボイパの武器

感情が伝わる表現もバズのボイスパーカッションの魅力だ
感情が伝わる表現もバズのボイスパーカッションの魅力だ

 

――「ボイパで世界一」。バズさんがいつも掲げている最も大きな目標です。これは具体的に、どのようなイメージを描いていらっしゃるのですか。

 

バズ:ボイスパーカッションには世界コンテストがないので実際には「ボイパ世界一」を決めることはできませんが、「ボイパといえばバズくんだよね」という存在になりたいです。そしてそれに伴い、ボイスパーカッションの普及に貢献したいという気持ちがあります。

 海外では状況は異なるかもしれませんが、少なくとも日本の現状では「ボイパ」でイメージされるのはヒューマンビートボックスです。半面、ボイスパーカッションはその影に隠れてしまっているような気がします。

 ボイスパーカッションには、ヒューマンビートボックスにはない魅力がある。それをいかに広く知ってもらうかという挑戦をしています。

 

――ヒューマンビートボックスにないボイスパーカッションの魅力。具体的にどのようにお考えでしょう。

 

バズ:ぼくはヒューマンビートボックスが大好きでよく聞くのですが、“人間離れした技術”がその真骨頂だと考えています。一方で、ボイスパーカッションは“人間らしさ”や”温かさ”が大事にされている技術だと思うんです。

 ボイスパーカッションは矛盾した表現だな、と思うことがあります。ドラムセットの模写をする以上、楽器に近づけていかなければいけない。しかしその方向を追求しすぎてしまうと、わざわざ人間の口で演奏する意味がなくなります。

 最近、YouTubeで見かけるアカペラ演奏で、音質や周波数帯域を綺麗に調整したボイスパーカッションの音色によく出合います。そうした方法を否定するつもりはありませんが、ぼくはできる限り加工していない“ボイスパーカッションならではの音色”を広く知って欲しいという気持ちもあり、演奏動画ではリバーブ(※残響音など空間の広がりを感じさせる音色の加工)すらかけていません。人間しか鳴らせない、ありのままの音の魅力を感じて欲しいのです。

 そしてやはり、みんなで演奏するアカペラですから、優しさみたいなものを表現したい。ただし、優しさを表現するにも、高度な技術と経験が必要です。

 ボイスパーカッションに熱中すればするほど課題が見つかるばかりです。慢心したら、世界一になれません。精進を続ける日々です。