金沢アカペラ・タウン2023(8/26-27開催)が終わりました。観客の一人として2日間、目一杯楽しむことができました。出演者、実行委員会、当日スタッフの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。
ぼくは縁あって1日目の夜に行われた「金沢アカペラ・コンクール」の審査員を拝命しました。コンクール終了後、初戦で敗れたあるグループから「私たちに足りないものはなにか」との質問を受けたのですが、情けないことにうまく回答することができず、ずっと後悔していたので、こうして文章にすることにしました。
ただ、最初にことわっておくと、これを最後まで読んでもアドバイスめいたものは示せていません。アカペラ・タウンから約10日間、考えに考え抜きましたが、「足りないもの」を探すのはとても難しかったのです。
ですからこの文章は「良いステージとはなにか、一緒に考えましょう」というスタンスで書きました。これを読んで、なにか一つでもヒントを見つけていただければ、それほどうれしいことはありません。
まずはステージの特徴を知る
今回のコンクールは音源審査を突破した8グループが出場し、トーナメント形式で2組ずつ演奏しました。5人の審査員が、より良いと思ったグループを選び、票を多く集めたほうが勝ち上がっていく形式です。
開催場所は石川県文教会館のホールです。舞台は間口12.6m、奥行7.9mで、998平方メートルの敷地内に400-500人ほどを収容します。
なぜわざわざコンクール概要やホールの特徴を詳しく書いたかというと、ステージの特徴を知っておくことがコンクールで良い演奏をするために決定的に重要だと考えるからです。
ステージがどのような特徴であるかを下調べしておくのは、コンクールに限らず肝要です。例えば、会場が狭くて観客との距離が近い場合は、より表情の作り方や目線の配り方に注意を払う必要があります。MCで「客いじり」をしてみてもいいかもしれません。会場が広くて観客との距離が遠ければ、大きな体の動きや会場全体の高揚感を誘うようなMCが武器になり得ます。
ステージの特徴をふまえた演出をすることで、パフォーマンスはより魅力的になるのです。逆に、ステージと演出がミスマッチだと、歌が上手だとしてもそれを十分に生かすことができません。
ちなみに金沢アカペラ・タウンでは、会場ごとに以下のような特徴があります。
バンドクリニックを試すのも一案
ステージの下調べの大切さを書いたものの、実際に歌うとなると狙い通りにいかないのがライブというものです。会場の雰囲気は、観客層、ロケーション、客席の快適性、照明、音響、出演順など、数え切れないほどたくさんの因子が複雑に絡み合ってかたちづくられます。たった一人の観客の手拍子が、大歓声につながることもあります。
そんな「水もの」の雰囲気をいかにコントロールし、観客の心をつかむかが腕の見せ所でしょう。とはいえ、それがどれほど難しいかは、ぼくも奏者の端くれとしてよく理解しています。演奏技術だけでなく表情、体の動き、フォーメーション、衣装、MCの内容や声色、選曲、曲順などなど、考えるべきことや身につけるべきことが多すぎます。まともに学業や仕事に励んでいる人にはとても時間が足りません。
打開策として、「バンドクリニック」と呼ばれるプロのレクチャーを受けるのは一案です。ぼくも以前バンクリを受けたことがあり、短時間のレッスンで驚くほどパフォーマンスが洗練されたのを覚えています。餅は餅屋に頼むのが良いですね。
※バンクリを安心して受けたいのであれば、当サイトが過去に取材した「King Of Tiny Room」さんのサービスがおすすめです。透明性が高いからです。
グループのコンセプトを再考する
ただ、バンクリを受けることにハードルを感じている人がいるのも実情でしょう。例えば、メンバーの一人がその必要性を感じていても、他のメンバーに数千円ずつの出費を求めて講師を招くのは難しいものです。地方であれば交通費も考えなければなりません。
そこで「自分でできるバンクリ」としてぜひ実践してみてほしいのが、グループのコンセプトの再考です。
コンセプトといっても「「「わたしたちはアニメソングをアカペラで演奏する混声グループです!」」」みたいなふわっとしたものではありません。「自分たちのグループにしかない魅力はなんなのか」「このグループでしか示せない価値はなんなのか」について考え抜くのです。
例えばアニソンカバーバンドであれば、以下のような疑問を自分たちに問いかけてみて、メンバー同士で話し合って言語化します。
- なぜコンセプトがアニソンでなければならないのか?
- アニソンでしか伝えられないことはなにか?
- 手法がアカペラである理由は?
- 他のアニソンカバーグループと何が違うのか?
- 混声だとアニソンのどのような魅力を引き出せるか?
- 数あるアニソンの中でその曲を選んだ理由は?
- 歌声を原曲に寄せるべきか?オリジナリティを出すべきか?
- どんなグループにしていきたいか?
自問自答を重ねていくうちに、メンバー内の共通点や、他のグループにはない「特異性」みたいなものが、不思議なことに少しずつ見えてきます。すると自分たちのステージ演出(セルフプロデュース)の方向性も定まってきます。表情、体の動き、フォーメーション、衣装、MCの内容や声色、選曲、曲順をいかにすべきか、指針が生まれるのです。
第三者に質問してもらおう
「コンセプトが確固としていればいるほど受け手を魅了する」というのはアカペラに限らずあらゆる表現で言えることです。自分たちならではの強みはなにか。自分たちが歌う動機はなんなのか。それを深く考えてみることに損はないはずです。
ただ、そうはいっても、自分たちだけで自問自答しコンセプトを導き出すのは難しい。そこでおすすめなのが、第三者に質問を投げかけてもらうことです。客観的な視点が一つ入るだけで、驚くほど頭の整理が捗ります(コンサルタントの仕事ですね)。友人やサークル仲間に依頼してみてはいかがでしょう。
もし周りに適当な友人もサークル仲間もいなければ、ぼくに気軽にお声かけください。日時を合わせてZoomかなんかで話しましょう。この文章を読んでくれた優しい方はだれでもご依頼OKです。コンセプトを強固にするためのヒントが見つかるかもしれません。
どうすれば会場を味方にできるか
冒頭で書いたとおり、とりとめもない文章となってしまいました。「コンセプトを固めろ」という言葉をそのまま自分に言ってやりたいですね。
そもそも、「私たちに足りないものはなにか」とコンクール後に尋ねてきた例のグループは、コンセプトをかなりしっかりと持っていました。演奏技術は申し分なく、人を感動させる力を持っていました。
それを証明したのが、金沢アカペラ・タウンの2日目最終盤「金沢駅もてなしドーム」でのステージでした。夕方にさしかかろうとする時間帯に登場したそのグループは、「アカペラ・タウンが終わってしまうのがのが惜しい」と思えるほどの見事なパフォーマンスをしました。まちゆく人の足を止め、耳目を集め、歌い終わるやいなや惜しみない拍手を受けていました。「アカペラ・タウンの最後に、金沢の玄関口で演奏するのはこのグループでなければならなかった」と思わせる力があったのです。
コンセプトとそれを表現する技術が、金沢駅前というロケーションによって引き出されたと言えます。「会場を味方にした」と言い換えてもいいかもしれません。
今後、そのグループがまた何かのコンクールに挑戦することがあるかもしれません。その際は、ぜひ自身のコンセプトの強さと演奏技術を信じてほしい。そのうえで「どうすればコンクール会場を味方にし、コンセプトを伝えることができるか」について考え抜いてみてもらえればと思います。人を魅了する力はすでにあります。あとはその応用だけです。応援しています。
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