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ボイパと音楽教育について

 ひさびさのステージであった。しかも1日で2ヶ所出演である。ふたつともたいへんよい経験だったので記録として残しておきたい。とくに「えほんコンサート」はボイパと音楽教育の関係について考えるうえで、貴重な経験となった。

 

にしもとりえ えほんコンサート

@戸塚区民文化センターさくらプラザ

2019年9月28日 午後1時15分〜出演

 

 ひとつめは「にしもとりえ えほんコンサート」である。

 このイベントはピアニストの西本梨江さん(公式HP:http://rie-piano.com/)が主催している。西本さんはヤマハJOC全国大会最優秀賞をはじめ、全日本学生音楽コンクール全国大会第1位、高校生国際芸術コンクールピアノ部門第1位など輝かしい経歴を持つプロのピアニストである。ロシア、イタリア、台湾、韓国など海外公演にも出演し活躍の幅を広げる一方、地元である横浜市戸塚区でもコンサートを継続し、地域への文化的貢献を行っている。

 

 このような素晴らしいピアニストと、私のような素人が、おなじステージに立ててしまうのはなぜか。それはとりもなおさず、ボイパの珍しさや即興性といった特性のおかげである。小さな子どもか参加するイベントであることから、音量が大きすぎたり「ドンシャリ」が強すぎるのもよろしくないため「ドラム表現としてのボイパ」は重宝するという側面もあったと思われる。とにかく、縁があってコラボが叶った。人生なにがあるかわからん。

 

 さて今回「親子向けの催し」ということもあり3歳の娘、妻とともに参加することができた。このイベントがめざしているのは、地域の子どもが楽しみながら生の音に触れ、感性を養ってもらうことだ。昔ながらの童謡をはじめ、最近の人気曲、クラシックなど様々な曲を西本さんがピアノで弾き、自身で司会しながらイベントが展開していく。途中、タンバリンやマラカスといった楽器を用いて一緒に演奏したり、音楽療法士の堀越美和さんによる「脳トレ」を組み合わせた手遊び歌に挑戦したりする。

 

 この日のハイライトがイベント名にもなっている「えほんコンサート」だ。朗読の島田洋江さんが絵本を読み、西本さんがオリジナルの曲をあてる。物語の展開に合わせて曲調を変化させていくので、聴き手が感情移入しやすくなる、という仕掛けだ。20年前から試行錯誤を重ねて、このスタイルを確立したという。

 この日は「はらぺこあおむし」のほか横浜DeNAベイスターズがつくったという絵本「スターマンおきてくださーい」、さらに「うまれてきてくれてありがとう」の3冊が読まれた。私の娘をはじめ会場の2、3歳くらいの子どもが食い入るように聴いていた。

 子どもを育てる経験をしたひとならわかると思うが、はっきりいって2、3歳の集中力はまるで皆無と考えてよい。にも関わらずあそこまでの集中力を発揮できたは「生朗読」「生演奏」による迫力のなせるものだろう。改めて、発せられた音や声がじかに耳へと届くことの価値を、思い知らされた。私の娘はこのコンサートの思い出を、その後何度も振り返っている。よっぽど刺激的で楽しかったものと思われる。

 西本さん自身、息子(現在3歳)を育てるなかで、幼い子どもの聴力の敏感さや感受性のよさに驚き、子どものうちに生の音に触れる機会を持つことの必要性を感じながら企画を続けているという。

 

 さて私はこのたびFoorinの「パプリカ」をテーマにコラボをした。イントロでボイパソロからはじめピアノが入り、堀越さんがピアニカで歌のパートを演奏して曲を展開していく。子どもたちはEテレのループ放映によって覚えたであろうダンスを踊りだし、会場はたいへん盛り上がった。個人的にはもっと子どもたちに喜んでもらうようなパフォーマンスができればよかったと反省している。ともあれボイパをはじめて生で聴くという人もいたようで、好評をもって受け入れられた。嬉しい限りだ。われわれボイパプレイヤーは、子どもの世代に対してできることは大きいのではないか。そんな思いを抱く機会となった。

 

 ヒューマンビートボックスに限れば、さいきんは「音楽教育」として注目される動きがあるようである。ヒューマンビートボックスを研究する北札幌国際大学短期大学部の河本洋一教授は、一般社団法人日本ヒューマンビートボックス協会と協力し、同協会所属のビートボクサーを講師として教育現場(幼稚園~高校)に派遣し教える体制づくりをはじめた。河本教授のウェブサイトのページによると、新しい学習指導要領には「音楽づくり」や「声を使った音楽表現」といった項目があり、その新たなジャンルとしてヒューマンビートボックスは注目されているという。河本教授がアピールするのは「いつでも、どこでも、手軽にできる音楽表現としての可能性」だ。

 

 私はかつて静岡大学アカペラサークルAal-Liedに所属していたころ、近隣中学校からの依頼を受けボイパ指導に赴いたことがある(正確には「アカペラ指導」として訪問した)。バスドラム、ハイハット、スネアドラムの3種類のかんたんな鳴らし方を教えた。2日間の練習はみな能動的かつ真剣に学び、最終発表を終えると晴れやかな表情をしていたことを思い出す。ボイパは習得するのは難しいが、習得できればどこまでも気軽で楽しいのだ。

 

 西本さんが子ども向けのコンサートを開こうとしたきっかけは、「地域の音楽家による音楽教育」の必要性を強く感じたからだという。息子を保育園に通わせるなかで、保育士のあまりの忙しさを目の当たりにし、「音楽教育に力を注ぎきれない状況」を感じたという。「地元の音楽家として少しでも(地域の音楽教育の)力になりたいと思った」という彼女の言葉につよく賛同する。

 

 とにかく良い経験だった。このサイトでいつか音楽教育に軸足をおいたボイパ論を展開してみたいと思う。ボディパーカッションが教育現場から生まれたことを思えば、色々と論考する余地は必ずあるはずである(いつになるかわからんが)。ちなみに上記の音楽療法士さんとも意気投合する場面があったので、改めて詳しく先方さんと話し、このブログでも紹介していきたいと考えている。

 

セプテンバーコンサート

@戸塚駅東口ペデストリアンデッキ

2019年9月28日 午後7時〜出演

 

 この日は同じく戸塚区で開催された「セプテンバーコンサート」にアカペラグループ「マミィー」のサポートメンバーとして参加した。

 マミィーは何度かこのブログでも書いたとおり「アカペラ公園」主催者の吉田実則さんとそのご家族を中心としたグループである。演奏曲は忌野清志郎「デイ・ドリーム・ビリーバー」、Kiroro「未来へ」、木村カエラ「バタフライ」の3曲。1年ほど前に買ったゼンハイザーのマイクをはじめて人前で使う機会となったのは嬉しかった。

 このセプテンバーコンサート、14年続いている、たいへん歴史の長いイベントだ。2011年の米国で起きた同時多発テロをうけ、世界平和を願うことが目的で、これもまた吉田さんが中心となり続けてきた。トレンドが移ろいやすい世の中において、長年にわたりイベントを継続していることに、ほんとうに頭が下がる。ちなみにこのイベント翌29日にも開催され、SOLZICKさんも出演したとのこと

 

 このサイトも、アプローチは異なれど、とにかく長く地道に続けることを第一にしていきたいとあらためて感じた機会であった。遠い未来でよいので、その歴史的価値が評価されるようなサイトにしていきたいもんである


参考

・タウンニュース 矢部町在住ピアニスト西本さん「絵本コンサート」続け20年生の音で感性育てる

https://www.townnews.co.jp/0108/2019/05/30/482790.html