アカペラ映像論

ウィズコロナ/アフターコロナのアカペラ映像を考える

 当サイトではこれまで、ボイスパーカッションやアカペラが、社会や文化とどのようにつながりを持ってきたのかについて考えてきた。たとえば模倣芸との関係伝統音楽との関係震災との関係などだ。しかし、まだ検討していない、きわめて重要な要素があった。「映像」である。

 日本におけるアカペラ表現は、この20年の間に大きな進歩を遂げた。そしてこの20年間は、撮影機材や映像閲覧環境がきわめて急激に変化した期間でもある。アカペラは、映像の変化とともに進歩してきたと言ってもよい。

 

 本論ではアカペラの映像について語っていく。ふだんはボイスパーカッションにポイントを絞って論じることの多い当サイトだが、今回はアカペラ文化全体に視点を広げることにした。

 くしくも2020年8月現在、新型コロナウイルス感染症の影響で、ライブやコンサートが制限され、アカペラの主戦場が映像へと急激にシフトしつつあるタイミングでもある。

 

 本論を展開していくうえで、今回、映像を専門としているonoshunから話を聞いた。かれは映像制作を生業とし、アカペラにおいてもライブ撮影や配信、プロモーションビデオ制作など多方面で活躍している。

 onoshunは今回、アカペラ映像における「時代の節目」として下記の5つの要素を提示してくれた。本論はこれに沿って展開していく。

 

  1. ハモネプ
  2. アカスピ(A cappella Spirits!)
  3. プロモーション
  4. YouTube
  5. コロナ

 

 このインタビューにより、アカペラの表現方法はやはり、映像メディアの影響をおおいに受けつつ進化してきたことが鮮明になってきた。そして、アカペラ映像の歴史を整理するなかで、ウィズコロナ/アフターコロナの時代に、わたしたちはどのような映像を提示していけるのかについて、考えるヒントも見えてきた。

1.ハモネプ

――まずはアカペラ映像の現状を整理しましょう。

 現在、アカペラ映像のメインとなっているのは、いうまでもなく「分割画面」です。新型コロナによる緊急事態宣言が発令された2020年4月前後から、アカペラ奏者は容易に集まることができず、個別に録音・撮影し、組み合わせるタイプの演奏形態へと移行してきました。

 分割画面は、じつはアカペラの世界では以前から見られました。古くは2001年頃のハモネプです。テレビの画面を分割し、「Vocal/Chorus/Bass/Voice Percussion」などとキャプションがつく映像です。

画像引用:フジテレビ「アカペラ日本一決定戦 全国ハモネプリーグ」2019年6月28日放送
画像引用:フジテレビ「アカペラ日本一決定戦 全国ハモネプリーグ」2019年6月28日放送

 ハモネプ以降では「ひとりで全パート歌ってみた」などの多録系動画でも分割画面は多く使われてきました。分割画面を見て「アカペラ演奏だ」とピンとくるひとも、少なくないと思います。

 しかし新型コロナの影響で、分割画面は多ジャンルに広がりました。その代名詞的存在が、星野源さんの「うちで踊ろう」です。あの画面構成は、アカペラの専売特許的なものではなくなりました。そこであらためて、アカペラは今後、どのように特徴を発揮していくべきかについて考えたいと思っています。

 

onoshun:分割画面は、アカペラ以外でもしばしば見られました。たとえばニコニコ動画で見られるような、「弾いてみた/叩いてみた」系の映像を重ねていく動画です。これは、遠くにいるプレイヤーが、あたかも同時に弾いている錯覚をもたせるのが目的であり、現在のコロナ下で見られるものと同質です。

 一方で、ハモネプにおける分割画面には、とても強い意味があります。やや結論めいたものを先に伝えますが、あれはアカペラ映像になくてはならない表現だと考えています。どういうことか。

 アカペラではしばしば、「誰がどのパートを歌っているのか、観客からはわからない」という現象が起こります。楽器を持たないし、マイクで口元も隠れるからでしょう。これを子どもから高齢者までテレビ越しにわかりやすく伝えるためには、分割画面はとてもわかりやすいのです。

 

 よくよく見ると、メインボーカルは最も大きく映され、ベース・ボイパはそれに準ずる大きさ、コーラスは等分……といった配分がなされています。もちろん、リードボーカル以外で特徴的なメンバーがいた場合、配分は変わりますが。

ハモネプ「以前」

onoshun:ここでいったん、「ハモネプ以前」のアカペラ映像表現について少し触れたいと思います。

 もちろん、プロアカペラグループのプロモーション映像もたくさんありましたが、ここでは『楽曲プロモーション』『バラエティ』『演劇』などを取り上げます。

 ゴスペラーズ(※1)は1996年から「ゴスペラーズ坂ツアー」を行っています。このツアーでは初期から、演劇とアカペラを組み合わせる舞台をつくっていました。シーンに応じた楽曲をアカペラで演奏するというもので、映像化もされています。

 またChuChuChuFamily(チュチュチュファミリー、※2)は「ボキャブラ天国」や「ものまねバトル」で、寸劇やものまねをしながらアカペラ演奏を披露していました。また時代は前後しますが、RAG FAIR(※3)も「おまたせ!!ラグ定食」という番組で、アカペラを取り入れたコントをしています。

 

 以上に見られるように、あくまでテレビや音楽レーベルのよるプロが制作したコンテンツだったかと思います。そこからアカペラが「独立」する転機になったのがハモネプだった、と考えています(もちろん、諸説ありますが)。

 

――演劇では、前後の文脈をしっかりと見せるので、アカペラ演奏に入ったときには、だれがどのパートを歌っているかという情報が、視聴者に共有されています。一方で、アカペラのみを演奏する場合、先ほどのご指摘の通り、「だれがどこを歌っているのかわからない」という問題が出てくる。そこでハモネプでは、映像にこれまでになかった工夫を施したというのが、onoshunさんの指摘です(※4)

 

onoshun:ハモネプでは基本的に、リードボーカルを中心に映しています。リードボーカルが画面にいないと、視聴者は不安になるんです。ボイパやベースはあまり映す意味がないので、ほとんど映っていません。ハーモニーが強調されるとき…たとえば、皆が同じ歌詞でハモるような場面は、舞台全体を映す「引き」の映像が使われます。

 

 「引き」の映像も、全員を映すばかりではありません。3人ずつ映したりとか、上下左右から画面をスライドさせたりとか。そしてとにかく、コマ割りが多いのです。曲のリズムに合わせて、どんどん映像をスイッチングしていきます。まさに「職人技」です。曲の展開をわかりやすく、映像によって説明してくれている。

 またハモネプでよく使われる手としては、先に述べた「分割画面」のあとに、審査員(芸能人)の顔を2秒くらい映し、引きの映像へと展開させていくパターンがあります。

 

――つまり審査員の目線を入れ込むことで、出演者が一方的に歌っているだけではなく、審査されているという状況を思い出させてくれるのでしょうか。

 

onoshun:そう思います。例えばつんく♂さんや秋元康さんが審査している姿をたった2秒間見せるだけで、「歌っている子たちにはわからないことを、つんく♂や秋元康は見抜いている」と視聴者に示すことができる。演奏後に発表される審査結果に、納得感を与えることができます。反対に、ネプチューンが聴き入っている姿を映せば、かれらは視聴者側に近い存在なので、共感を与えるきっかけになります。

 全年齢層向けに何万世帯に同時視聴を可能にする「テレビのコンテンツ制作力」と、アカペラというニッチなジャンルがかけ合わさった化け物番組でもあると思います。

2.アカスピ(A cappella Spirits!)

――ハモネプにおいては、「撮る側」と「撮られる側」がはっきりわかれていました。ハモネプ後に数多く生まれた大学アカペラサークルでも、イベンターによる映像記録が中心となっていました。

 その後、おもにYouTube誕生を契機に、「撮る側」と「撮られる側」がどんどん近づいていく現象が進みました。つまり、自分たちで撮って自分たちで発信する映像が、インターネット上にどんどん増えていきます。

 

onoshun:転機となったのはアカスピ(A cappella Spirits!、※5)だと考えています。かつてアカペラがマイナーだった時代、大きな大会を除き、ライブはエントリーしたら全員出られるものでした。しかしその後、アカペラ人口は急激に増加。アカスピによって全国のアマチュアが目指す舞台が整ったこともあり、審査が一般化しました。とりわけアカスピ以降は、映像審査が取り入れられるようになりました。自分たちの演奏を、自分たちで撮り、発信するスタイルの誕生です。

 

――アカスピについて少し整理します。ハモネプのアマチュア大会は2011年夏にいったん幕を閉じました。その後芸能人大会が催されていくのですが、いずれにしてもアマチュアが出られるハモネプは数年間、開催されない状況が続きました。この間に、アカペラの衰退を危惧した有志によって生まれたのが「アカスピ」です。その後回数を重ね、出場を目指すアマチュアは増加の一途をたどり、ハモネプのオルタナティブとしての地位を確立していきました。

 

onoshun:映像審査のなかで、注目すべき事例はアカペラグループの「亜麻音」(あまおと)です。

 もちろん諸説ありますが、かれらはレコーディングスタジオを利用して、良い音質かつ良い映像で撮影し、アカスピやKaja!へエントリーしました。音質も映像も、何もかも良かったので、だれもがこぞって真似をし始めました。ライブエントリーを目的とした良質な音質録音と映像録画が一気に増え、ライブの音源、動画審査もここから急激に変わりました。これがひとつの転換期だと考えています。

 

A cappella Spirits YouTubeチャンネルより引用
A cappella Spirits YouTubeチャンネルより引用

 アカスピのYouTubeチャンネルのサムネイルを見るとわかりやすいのですが、ほとんどすべての映像は俯瞰視点で撮られ、全員が正面を向いて歌うものばかりです。審査を突破した先にある「ライブ出演」を目的としていることが、よくわかります。

 またこれらの映像は、ライブハウスを表現しているとも読み取れます。YouTubeで箱ライブを見ている感覚です。映像としては決して派手ではない

「ベタ取り」ではありますが、根強いファンがいるのもその理由でしょう。

サムプロ、くねとも、多重録音

――自分たちで映像を撮って発信するという意味では、「サムプロジェクト」(※6)があります。ハモネプに出場した「のーてんき」というグループのボイパ・サムくんが、おなじくハモネプ出場の「インテグラル」「無花果」のボーカル・横田くねくねさんとともに歌った映像が再生回数を伸ばしました。

 その後サムプロジェクトでは、さまざまなハモネプ出場者とのコラボ動画を連発。ファンを獲得していきます。そこから派生したとされるのが、くねくねさんが中心となった「くねとも」(※7)です。

onoshun:サムプロジェクトの初期は基本的にはアカスピ時代とおなじで、カメラが固定されています。くねともへと派生したあたりから、カメラ(視点)の移動が生まれていきます。また、同じ人が複数のパートを歌ってそれぞれ撮影し、ひとつの画面に組み合わせるタイプの映像(多重録音)も導入され始めました。

 多重録音で最も有名なもののひとつが、いんひょくさん(※8)の動画です。またDaichiさん(※9)も多重録音で活躍の幅を広げ始めました。

3.プロモーション

――アカスピ、サムプロジェクト、くねとも、多重録音……このあたりから、アマチュアによる映像表現の幅がかなり広がってきたように感じます。

 

onoshun:映像表現という意味でそこから頭ひとつ抜けていくのが、背徳の薔薇(※10)Nagie Lane(ナギーレーン、※11)Groovy groove(グルーヴィーグルーヴ、現在Ratrium※12)だと考えます。かれらの主戦場、というか収益の中心はあくまでライブだったり、配信だったりするのですが、そのプロモーション手段として映像をフル活用している。ブランディングにも成功しています。

 順に追っていきましょう。背徳の薔薇のビデオは、お金をあまりかけずに良質を保つミュージックビデオの好例です。

 この「ROCKET DIVE」の映像は、撮影スタジオで一気に撮っています。経費は基本的にスタジオレンタル代で済みます。場所さえ抑えてしまえば何回でも撮れるし、カメラを移動させながらパターンを変えて一気に撮ればいい。企画やコンセプトさえしっかりしていれば、あとから編集で組み立てていけばよいのです。

 

 Nagie Laneの最近の映像は相当作り込まれています。「LEMONed I Scream」は企画、絵コンテ、ヘアメイク、衣装、撮影、編集、エフェクトといった基本的な行程に加え、屋外での撮影なので露店なととの交渉も生じると考えられます。

 ワンカット3秒くらいで展開しているので、ひとつの画角でも何度も取り直しているはずです。トータル1分37秒の映像ですが、撮影には、もしかしたら2日間かかっているかもしれない。ただ、やはりその分見ごたえがあり、飽きさせない映像になっています。ほかの映像も軒並みクオリティがとても高いです。

 

 Groovy grooveは対象的に、きわめて動きが少ない映像です。顔も見せていないのですが、楽曲の完成度と美しい映像、明朝体の歌詞表示など細部にまでこだわり、惹き込まれます。カット割りはほとんどないけれど、画が綺麗だから耐えられる。展開させる必要がないんです。音の良さがあるから大丈夫なんですね。

 カット割りは多いほうが飽きさせないというのは映像の基本的な考え方ですが、あくまで表現したい世界観とマッチしているかどうかが、もっとも大切な要素です。

4.YouTube

――ここまで振り返ったとおり、アカスピ以来、YouTubeはアカペラにとって、なくてはならないプラットフォームとして機能してきました。それまでは、「大会の予選」「ライブに呼ぶため」など、現実世界での目的を達成するための「手段」としての側面が強かった。しかし近年はYouTubeでの活躍自体を目的とする表現者が増えていきました(もちろんこれはアカペラに限った話ではありませんが)。

 

onoshun:代表的なのはオンラインアカペラサークルのWHITEBOX(※13)でしょう。かれらはうまく自分たちに合うものを取り入れつつ、時代に乗ることができたと思います。

 WHITEBOXに双璧をなして勢いを増している「とおるすアカペラ」(※14)のチャンネルもそうですが、かれらはいい意味で「消費されやすい音楽」を作っています。キャッチーで、冒頭から聴き入ってしまうアレンジ。そして何度も思わず聴きたくなるマッシュアップ。情報量が多く、ジェットコースターの詰め合わせを販売しているようです。

 現在、YouTubeの平均視聴時間は120分とも言われていますが、YouTubeの世界ではその時間をいかに勝ち取るかが勝負となっています。高揚感があり、キャッチーで何回も聞きたいなと思えるもの。短時間で楽しめるものが求められます。となると、このふたつは当てはまることがよくわかりました。

 サブスクリプション時代になり、楽曲のイントロが短くなったと言われています。先日ツイッターでも話題になりましたが、楽曲の前奏の平均時間は1980年代までは平均約20秒、2019年には平均5秒となっているそうです。

 じっさいに、最近の大ヒット曲であるyama「春を告げる」やYOASOBI「夜に駆ける」は、歌が始まるまで2秒です。最初でリスナーの心を掴まないと離脱し、30秒のうちにしっかりと展開させないとさらに離脱する。厳しい世界です。そんな時代において、しっかりとファンを獲得しているWHITEBOXととおるすアカペラは、引き続き注目していくべきです。

5.コロナ

――さていよいよ時代は現在に追いつきました。冒頭で述べたとおり、現在隆盛を誇っているのが、分割画面での映像表現です。

 私はツイッターで、この分割画面についての違和感を表明したことがあります。ひとが熱唱している表情は、一般的に見慣れないものです。その姿が分割画面でやたらたくさん流れてくることにたいして、正直に言って、やや食傷気味になってきました。しかしコロナ禍以降、集まって演奏することが難しくなっているのも事実です。そんななか私たちはあらためて、どのような点に気をつけて映像を作っていくべきでしょうか。

 

onoshun:私が個人的に「うまい」と思うグループを紹介しながら、考えていきたいと思います。

 ひとつめは、アカスピやハモネプでも活躍しているアカペラグループ・sinfonia(※15)でしょう。たとえば最近発表したこの映像を見てみてください。

 最初にリードボーカルから入り、ピアノが入り、ボイパが入り、コーラスが入っていくのが映像によって説明されている。また全体を通して基本的にリードボーカルの姿はつねに残しています。だれがリードボーカルかわからないと、視聴者は不安になるというのはここまで語ってきたとおりです。

 またカット割りのテンポも良い。動画においては、同じ画角を見続けるのはなかなか耐えるのが難しい。写真と違って、消耗性が強いのです。そのあたりのことをよくわかっています。

 複数人が映る場面ではリードボーカルの比率を大きくしたり、全員がハモる場面はあえて等間隔にするなどの工夫もなされている。音楽の展開やストーリーを、映像によって説明しようとしていることがよくわかります。必要な瞬間に、必要な画が置かれているんですね。これは意外と、みんなできていないことです。

 

――実際のライブでステージを見るとき、観客は基本的にリードボーカルを視線で追います。で、全員でハモるときは俯瞰したり、ベースやボイパソロがあったときにはそちらに目線が映る。そういう目線を表現しているという認識でしょうか。

 

onoshun:そうです。そしてライブとオンラインの決定的な違いは、まさにそのあたりにあると思います。ライブでは、身体全体でとても多くの情報を得ていますから。

 

――リードボーカルが歌っている隣で、コーラスのひとりがそわそわしだしたと思ったら、案の定つぎに主旋律を唄い出す、なんてことはよくありますもんね。会場で隣り合った常連客らしき人がやたら盛り上がり出したことを見て「これは人気曲なんだ」と察したり。ライブで得られる情報量は、たしかに大きいです。

 

onoshun:それが映像になった瞬間、発信側がよっぽど工夫しないといけないのです。そのあたり最高にうまいのが、北海道のアカペラグループ・UNLOCK!でしょう。かれらは今年8月に行われた、リモートアカペラ演奏動画を使ったアカペラコンテスト「Acappella Pleasure vol.1」でベストクリエイター賞を受賞しました。「Make You Happy」をご覧ください。

 これはリードが次々と変わっていますが、いま誰が歌っているのかが、よくわかる。背景も、原曲を歌うNiziUの明るくはつらつとした雰囲気を表現しています。サビの直前でメンバーを映さず歌詞のみ表示させたり、分割画面のところでも、声を発するメンバーのところでアイコンが点滅するような工夫がなされています。見ていてほんとうに楽しい。ボイパやベースはあまり映りませんが、特別な意図がない限りはそれでいいんです。最近の一番のイチオシバンドです。

 

――アカペラは、楽器などに比べると周波数帯が狭く、情報量が少ない表現方法ですが、それを補うように、映像ではより多くの情報を盛り込むべきなのでしょうか。

 

onoshun:その発想は、じつは結構危険です。再びsinfoniaに戻りますが、「いのちの理由」の映像を見てください。

 これは上のふたつに比べて、カット割り(映像の展開)はとても少ない。そのかわりに、ピントが曲に合わせてかなり意図的に操作されています。リードボーカルが歌っている場面では、コーラスをボケさせたり、全員が歌う場面では俯瞰的な視点にし、全員にピントがあっています。空白を恐れて情報を盛り込むのは必ずしも正解というわけでなく、「その歌にとってどういう映像が適しているのか」を考えることが何よりも大切です。

映像だからできること

onoshun:ライブじゃないからこそできることは、たくさんあります。

 たとえば、音と映像を分離することです。ほんとうにその場で歌う必要はまったくない。音は音で録音し、映像はあとから撮ればよいのです。すると、余裕をもって撮影に臨むことができます。映像ではフレームによって上半身で縁取られるため、上半身の表現のみで伝えなければいけません。映像は表情や表現力をより際立たせる工夫が必要ですから、余裕がある「別撮り」という方法を積極的に取り入れるのもひとつの手です。

 またこの十数年で、動画撮影・編集機材が驚くほど安価になりました。私たちは個人で、ハモネプみたいなことができちゃうんです。

 

――動画制作に悩んでいる人、また今後挑戦してみたい人にたいして、なにかヒントとなる映像はありますか。

 

onoshun:アカペラではありませんが、たとえばゲスの極み乙女。の「猟奇的なキスを私にして」は真似してみても良いと思います。

 メンバー4人が別々の画面で街を歩いているだけですが、室内では決して生まれないような物語がそこに宿ることがよくわかります。先程も話したとおり、音と映像が分離できることを生かして、外に出るのも方法のひとつです。

 海外のアカペラグループは、すでにいろんな動画を実践しています。百聞は一見にしかず。下記のアーティストの動画から得られるものは多いと思います。

 

Home Free YouTubeチャンネル
Home Free YouTubeチャンネル
Pentatonix YouTubeチャンネル
Pentatonix YouTubeチャンネル
VoicePlay YouTubeチャンネル
VoicePlay YouTubeチャンネル

 これらの映像を完璧に真似しようと思うと、膨大な時間と手間がかかります。そうではなく、いいと思ったところを少しだけ取り入れること。また、自分たちの映像を見ていて、モヤモヤした部分があったら、必ずなにか問題があると考えるべきです。たとえば、誰かが映りすぎていないか。意味がない映像がないか。画面が変わったときの色温度が違いすぎていないか。そういったことを少しずつ解決していくことが大切です。

 

 いま皆が実践しているようなリモートアカペラや分割画面は、今後いったん落ち着くと思っています。しかしこのタイミングで皆が挑戦した映像編集技術はノウハウとして蓄積され、今後、一気に進化すると考えています。私たちはライブのほかに、もうひとつの発信方法を手に入れることができたのです。肝心なのは、自分たちにとって、どの発信方法が適切かを知り、活用することだと思います。

 

公開日:2020年 8月18日

※1…1991年、早稲田大学アカペラサークル「Street Corner Symphony」で結成。2001年リリースのシングル「ひとり」が、アカペラ作品としては日本音楽史上初のベスト3入りした。代表曲は「永遠に」「星屑の街」「ミモザ」など。

※2…1997年結成。「ボキャブラ天国」をはじめさまざまなバラエティ番組に出演する「アカ・ペラスーパーヴォーカルエンターテインメント団」。2006年に解散したが2016年に「ザ チュチュチュファミリー」として復活。不定期で活動している。

※3…男声ヴォーカル・グループ。2002年6月に2ndシングル「恋のマイレージ」3rdシングル「Sheサイドストーリー」を同時リリースし、オリコン週間シングルチャート初登場1位2位を独占。同年末に紅白歌合戦出場。

 

※4…当サイト「ハモネプの物語」という文章では、ネプチューンが素人の出演者を「いじる」ことで、魅力を引き出していったと論じた。番組全体を通して、だれがどういうキャラクターを持っていて、どのパートを歌っているかが、視聴者はあるていどわかる構造となっていたことはふまえておきたい。

※5…アカペラライブTAKE IT EASY!が主催する、2012年創設の日本最大級のアマチュアアカペラ全国大会。2020年現在までに8回を重ねている。

※6…全国ハモネプリーグ9,11,12 出場「のーてんき」のボイスパーカッション、サムヤマザキが企画するアカペラコラボプロジェクト。

※7…「インテグラル」「無花果」横田くねくね氏が主催する。毎回異なるメンバーでセッション動画を撮影するプロジェクト。

※8…Inhyeok Yeo。京都大学アカペラサークル「CrazyClef」出身。2013年にYouTube上で発表した多重録音によるマイケル・ジャクソン「Thriller」で一躍有名に。

※9…口から50種類以上の音色を出すことができる、日本で最も有名なヒューマンビートボクサーの一人。アカペラグループ「よかろうもん」のほかRAG FAIRのサポートメンバーとしても活躍している。

※10…駒澤大学公認アカペラサークル鳴声刺心で2014年に結成したヴィジュアル系のアカペラグループ。

※11…2018年結成。モデル、トリリンガル、アレンジャーなど、多彩な才能が集結しシティポップ を自由に操る新世代のアーティストとして注目が集まる。(ウェブページより)

※12…2016年結成。2018年8月にJ-POPをアカペラカバーした1st EP『Groovy Covers Vol. I』を配信リリース。収録楽曲がSpotifyのバイラルチャートや急上昇チャートにランクインする。2020年3月現在、YouTubeのチャンネル登録者は130,000人以上。2020年3月から”Ratrium”として活動開始。(ウェブページより)

※13…全国各地に散らばるメンバーがインターネットを用いて繋がるオンライン型のサークル。普段は別々で音楽活動をする傍ら、WHITEBOXとしてアカペラ作品を中心に遠隔でデータを送りあって制作するメンバー全員が現役大学生の集団。レコーディング映像編集、デザインなど全て自分達でこなしている。(YouTubeページより)

※14…ソニーミュージック運営レーベル「Be」所属、アカペラクリエイターの「とおるす」が運営するYouTubeチャンネル。とおるすはラッツ&スター佐藤善雄氏「Sixty Candles」共編曲、フジテレビCMアカペラロゴ制作、TVアニメエンディング曲コーラス、公立小学校公式卒業テーマソング作曲等を手掛ける。

※15…ヒューマンビートボックス日本チャンピオン・Shimo-Renが中心となり結成。