3.音楽はカンバセーション

小野アヤトインタビュー

ボイスパーカッションを奏でる小野(会場右)
ボイスパーカッションを奏でる小野(会場右)

――たいへんよい経験をさせていただきました。興奮しました。まさにのような場所を作りたかったのですね。

 

小野:ライブハウスなどで行われるセッションライブって、参加するにはなかなかハードルが高いですよね。場所によってルールもあります。「参加してみたいけれどどうすればいいかわからない」と二の足を踏む人も多い。その「入り口」を作ってあげるのがこの店の役目のひとつだと思っています。だから1ヶ月に1回はセッションライブをしています。

 セッションによって生まれるつながりは大きいものです。それは自分自身が体験してきたことでもあります。

 

 5年ほど前に、知人に連れられて、六本木のレッドシューズ(※5)というバーに行きました。ちょうどセッションライブが行われていて、ホストを務めていた伊丹谷良介さん(※6)を紹介してもらった。知人が「この子、ボイパのアヤトくん」と紹介すると、伊丹谷さんは「ステージ上がりーや」と誘ってくれた。そこで気に入っていただき、ぼくの店でも、オープンから毎月1回ライブしてくれる仲になりました。今日のライブでボーカルを務めているmiimegも伊丹谷さんの紹介で、一緒にバンドを組んだりしています。

 

 この店でいちどインストアライブやった際には、サックスの人が連れてきてくれたギタリストさんと知り合い、さらにその人が連れてきてくれたバイオリニストもこの場所を気に入ってくれて「もう一回やっていいですか」と次のライブ決まっていったり…。セッションによってつながる縁のすごさを感じています。

 あとは、この場所が人と人とをつなぐ拠点にもなっている。これまでぼくは、「つくってはこわし」を繰り返してきたような男なのですが、この歳にしてはじめて、とうとう「こわせない場所」ができたという感じです。うれしいですね。

 

――セッションによってつながる縁のすばらしさ…。私自身も、先ほどの演奏でその一端を実感できました。来店者にそれを実感させることができるのは、まさに先ほどおっしゃったような、店づくりにたいする理想があるからこそだと思います。一方で、セッションをするためには個々の技術がなくてはならないと思います。アヤトさんはボイパで楽器と渡り合っていくにあたり、どのような点に気をつけているのでしょうか。

 

小野:楽器とのセッションで気をつけるべきは「帯域」です。他の楽器が出せない「ドン・シャリ」の音色をどう作るかについては徹底しています。これは音量以上に大切なこと。大学生でボイパをはじめたころから意識していました。アカペラの帯域は真ん中に寄っているから、どうやってほかの帯域を響かすかに意識を向けながら音を作り上げてきた。時々ノリをつくるためにタムに声を入れたりしますが、基本的には無声音です。余談ですが、音色で良いと思うのは渡辺悠くん(※7)ですね。

 そして、音色よりも大切にしているのは、「どれだけ演奏者が気持ちよく演奏できるか」です。つまり「曲のノリ」をどれだけ知っているかということ。とにかくいろんな音楽を聴いて、身体で感じて表現することが大切だと思います。音楽がカンバセーション(会話)だとすれば、曲のノリを知らないことは、「語彙やボキャブラリーがない」ということと同じです。

 

 ぼくはセッションの現場にたくさん出ていって鍛えられてきました。ステージ上で「次の曲サンバだからやって」「次はボサノバだけどできるよね」みたいな要求をされる。そこですぐに対応できるかどうかは重要で、その後の付き合いにも関わってきます。いろんなボキャブラリーを持っていて、どんな人とでも会話ができると、交友関係が広がったりすることと同じだと思います。

 繰り返しますが、音楽はカンバセーション。コミュニケーションをしようとする意識があるか、キャッチボールになっているかが大事だと思います。「おれの技術はすごいだろう」では成り立たない。ぼくがなりたいのは「リフティングがうまいやつ」ではなく「いいパスを出してチームのバランス取るやつ」です。

 歌っているひとや一緒に演奏しているひとが気持ちよくなるような演奏を極めることにしか、興味がない。ぼくはその点では、すごく多くの経験がある。ボイパ奏者の中では一番だと思っています。でももっと広義の「ドラム奏者」という枠のなかでみると、まったく足りないと思います。

 

 ぼくには、あるめざすべきドラマーがいます。そのひとが曲の冒頭に鳴らす「ト・トン」という音は、「かれにしか鳴らせない音」と、だれもが惹かれる。その「ト・トン」に魅了された多くのひとが、かれに仕事を依頼し続けるのです。こういうドラム奏者がボイパの世界にいるかといえば、まだいないと思います。

 たとえばある音楽アーティストが、全国ツアーのためにバックバンドのメンバーを探しているとしましょう。しかしそこで「ボイパはだれかいないか」とはならない。ボイパは有名になりましたが、まだまだ音楽的な市民権が得られたとは思えないのです。これからボイパがひとつの文化となってくために、ぼくができることをやりたい。そのささやかな実践が、この店なのです。

 

 もっと大きな視点で、音楽文化全体に貢献したいという気持ちもあります。芸能ごとは、どんどん細分化していっています。音楽業界も規模が10分の1に縮小している。めちゃくちゃ有名な音楽プレイヤーでも小さな店でしか演奏できなくなっています。でもそういう状況だからこそ「ここでなら演奏したい」とアーティストに思ってもらったり、「こんな高いレベルの曲が聞ける」と多くのひとに来てもらえるような場所をつくりたい。

 

 ぼく自身もミュージシャンとして発信していきます。現在組んでいるバンドTrio Chacua'(トリオ・チャクア)はレコーディング中。バンドに価値が生まれればこの店のブランディングにもなる。この両輪でこれからも活動していきたいと思います。

※5…レッドシューズ・・・過去にローリング・ストーンズ、デヴィッド・ボウイなど世界中のミュージシャンが訪れており、「日本のカフェバーブームの中心を担う場」として著名なバー。

※6…伊丹谷良介・・・シャ乱Q・はたけによる「HATAKE BAND」のボーカリストとして活動するほか、中国でいち早く活躍し現在もアジアを舞台に活動するロックミュージシャン。公式サイト:itamiya.net

※7…渡辺悠・・・「ボイパ本」(リットーミュージック)著者で日本におけるボイスパーカッション普及の最重要人物のひとり。アカペラグループ「香港好運」のメンバー。



【店舗情報】

 BAR Voices(バー・ヴォイセス)

 

 〒150-0011

 東京都 渋谷区東3丁目12-12 祐ビルB103

 

 営業時間:19:00~翌3:00 日曜定休

 

 電話: 03-6427-4854

 

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