「制約」から生み出すストーリー

ボイスパーカッショニスト ハヤシヨシノリ インタビュー

 その1分30秒間の演奏に衝撃を受けたアカペラ奏者は少なくないはずだ。2001年に開催されたハモネプ初の全国大会で、アカペラグループ・チン☆パラが演奏した「LOVE PHANTOM」である。

 「ドゥー・ワップ」や「教会音楽」といった既存のアカペラのイメージを一新するかような迫力と疾走感は今もファンの語り草となっており、そのプレイスタイルは2020年現在に至るまで多くのアカペラ奏者に影響を与え続けてきた。

 

 ハモネプの全国大会出場後に発売したミニアルバム「La-Punch」はオリコン最高位6位、25万枚を売り上げ、2002年4月にはメジャーデビューを果たした。また、テレビ朝日「ミュージックステーション」をはじめ、さまざまなメディアに登場し新たなアカペラの姿を示し続けた。伝説ともいうべきそのグループを率いたのが、ボイスパーカッショニストのハヤシヨシノリである。

 

 ハヤシは2004年、解散したチン☆パラを母体として「スメルマン」を結成し、作詞、作曲、編曲、編集作業などをほぼ一人で行うなど楽曲製作の中心を担い続けてきた。メタルやパンク、プログレといったロックを中心に、ヒップホップ、オペラなどジャンルを横断するミクスチャー表現で楽曲を量産。エフェクターやサンプラーの大胆な活用、独自のパート編成など実験的なアプローチを次々と実践した。アカペラにおける表現の拡張に、果敢に挑戦してきた人物でもある。

 そして、その挑戦には「ボイパ」という武器がなくてはならなかった。

 

 当サイトはハヤシにインタビューを実施した。ボイパの存在意義や可能性を考えるうえで、この挑戦者への取材は、なくてはならないものであったからだ。奇しくもハヤシは、2017年から活動を続けてきたインストバンド「jamzo」を解散し、TwitterYouTubeを活用したあらたな活動を展開し始めたばかりである。

 

 ハヤシの言葉には、経験に裏打ちされた確かな重みがあった。とりわけ「アカペラは制約があるからこそ価値がある」そして「そこからはみ出そうとしたところにストーリーが生まれる」という言葉は、私たちに多くの示唆を与えてくれる。

 アカペラという表現方法が持つ「制約」を認識し、内在化し、そのうえで意識的にはみ出していく行為。かつてなく変化が求められる時代において、なくてはならないモチベーションではないだろうか。

 

 「S.A.K.E.」という曲を生み出すほど酒を愛するハヤシへのインタビューとあって、筆者は故郷・石川県の日本酒を持参した。酒を酌み交わしながらの会話とあって、筆者にも熱が入ってしまった。インタビュー記事にも関わらず、筆者の持論が展開される部分があることを、先にお詫びしておきたい。しかし他方では、ボイパやアカペラについて考えるとても刺激的な議論になっているとも自負している。

 

 ぜひ飲酒ができる人には、お酒を飲みながらお読みいただき、ハヤシが築いてきた世界観に耽溺してもらえればと思う。