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全日本アカペラ連盟の代表理事交代に関連して思うこと

全日本アカペラ連盟(AJAA)の代表理事交代のお知らせがありました。

 

当サイトでは以前、同連盟の前代表理事である藤井隆太さんを取材しました(記事はこちら)。だからどうというわけではありませんが、今回の一連の出来事を受けて、少し考えを残しておかないといけないなと思い、この記事を書くことにしました。

 

代表理事交代のお知らせツイートは下記です。

経緯

 私の理解だと、代表理事交代の経緯はこうです(認識不足、事実誤認があればご指摘ください)。

 

 まず、この6月に「エジソンタウン」という新しいアカペラコミュニティが誕生しました。企画者は、「PLUS Unison」(プラスユニゾン)「50Fes」(ゴーマルフェス)の仕掛け人でもあるりょーたさんです。発表翌日に登録者が100人を突破するなど、注目度の高いコンテンツとして一気に知られました。

 

 これほど注目される背景には、りょーたさんによる熱量の高いメッセージもさることながら、PLUS Unisonの存在があると考えられます。

 

 PLUS Unisonとは、ハモネプなどで活躍した著名なアカペラ奏者を次々と招き、J-POPの話題曲をアカペラカバーして、YouTubeで披露していく企画です。SNSとの親和性が極めて高く、大学生を中心とした若者から大きな支持を集めています。エジソンタウンには、PLUS Unisonで活躍するアカペラ奏者が多く協力しており、その奏者にあこがれる人が入会を希望するという構図があるようです。もちろん、そうではない動機で入会した人も大勢いるとは思いますが、少なくともエジソンタウンがPLUS Unisonを「売り」にしていることは、このツイートを見る限り間違いないでしょう。

 

 こうした構図に対して、SNS上(というかTwitter上)では、批判的な意見や心配の声が出てきています。それらを大雑把に要約すると、「このコミュニティに入らないと“乗り遅れる”かのような不安を与え、顧客を囲い込んでいるのではないか」という、オンラインサロン等への批判でよく見られる類いの言説です。

 

 問題はここからです。そうしたエジソンタウンへの批判の投稿(ツイート)の一つを、全日本アカペラ連盟(AJAA)の公式アカウントが、引用リツイートしました。AJAAはりょーたさんが理事を務めている団体で、エジソンタウンと無関係ということはできません。つまり、AJAAがエジソンタウンへの批判ツイートを「さらし上げる」ような形となってしまったのです。

 

 ちなみに、該当のリツイートをしたのは藤井さんでもりょーたさんでもなく、別のスタッフだそうですが、事態を重く見たAJAAは、藤井さんに本件の監督責任があるとして、降格人事を発表しました。

 

自覚不足に原因

 本件は、いろいろな論点があると思います。まずは、やはりAJAAが行ったリツイートは、厳しく批判すべきです。

 

 AJAAは、JAMや50Fes、アカスピといった有名アカペライベントの運営を担い、全国の大学サークルの活動支援を行っています。そうした点を考えると、いわゆる「日本のアカペラ界隈」の代表的組織であると見なすことができます。もちろん、だれが日本の代表的組織と認定したわけでもありません。しかし、ごくシンプルに、「全日本アカペラ連盟」という団体名を見れば、外部の人は代表的組織と捉えるはずです。今回の問題点は、そういった自覚が不足していたということに尽きるでしょう。

 

 その上で、藤井さんの降格について私は「そこまでしなくてもいいのでは」と素朴に感じます。が、これはAJAAにとって、一つの危機感の顕れなのかもしれません。今後どのような方向性を示し行動していくのかわかりませんが、課題を乗り越えて、日本のアカペラを盛り上げる旗振り役となっていってほしいです。

課題は透明性

 今回の一連の出来事を見ていて感じたのは、AJAAのような「アカペラの中心地」(のように見える人や団体)に対して、ぼんやりとした不信感が底流にあるのではないかということです。「ぼんやりとした不信感」を言い換えると、「あのアカペラ有名人たちはどうやらスゴイっぽいけど、実際には何者だかよくわからない」「何を目的とした集団だか見えにくい」という漠然とした疑問です。

 

 AJAAにいま必要なのは透明性でしょう。あらゆる情報を開示し、どのような団体であるのか、課題点も含めて改めて知ってもらうことです。ですが、一般的に、組織における情報開示はとても難しいものです。何をどこまでオープンにしていれば透明性が担保されているのかという基準は、多くの場合、受け手に委ねられるからです。

 

 組織運営をしていれば、個人のプライバシーなど、表に出せないことも多くあります。例えば、今回のAJAAの出来事では、該当のリツイートをした本人の名前を公表するのは難しいはずです。本人の名前を出した時点で、経営陣(理事陣?)の責任逃れとも捉えられかねません。そうした制約の中で、どこまで透明にすべきかは、難しい判断です。

 

 また、仮に何もかもすべてをつまびらかにしたとしても、「まだ絶対に何か隠しているはずだ!」と批判することもできます。悪魔の証明というやつです。

 

メディアの不足

 

 このようなときに必要とされるのは、メディアの存在です。丁寧に取材し、第三者の目線で、その組織の実態を(時に批判も交えながら)伝えることです。客観的に書くことで、はじめて見えてくるものはたくさんあります。

 

 しかし、残念ながら、そうした役目を担っているメディアは、アカペラ文化の周辺にはほとんどありません。もし仮に現在のアカペラが健全でない文化なのだとすれば、力のあるメディアがないからだと考えます。

 

 より良い文化にしていくために、ツイートによる批判は、とても大切なことです。ただ、Twitterは意見が主観的かつ一方的になりがちな側面もあります。やはり、客観的に伝え(ようと心がけ)るメディアがなくてはなりません。当サイトは大変微力ですが、ボイパやアカペラの歴史文化を考えるメディアとして、そのような役割の一端を担っていければと考えています。